新しいサイトに引っ越しました。全過去エントリーも丸ごと移しました。
http://www.chikawatanabe.com
へどうぞ。

December 30, 2002
MyBrain

今年ももうすぐ終わり。毎年だんだん脳がPCやPDAなどにアウトソースされていく。もはやキーボードと画面がなければ文章も書けない。(どうしても手書きをしなければならないときはワープロで下書きする始末)

というわけで、今年はMyBrainというソフトを活用した年であった。ウェブサイト、ハードディスク上のドキュメント、ちょっとした思い付きのメモ、などなど、ありとあらゆる情報をごちゃまぜのまま統合して整理するツール。その名もThe Brainという会社が作ってます。

このスクリーンショットのような感じで、有機的に項目間のリンクを張ることができる。複数の項目にリンクすることもできるし、階層はどこまでも深くできる。クリックしていくと、自分が見たい項目にどんどんフォーカスがあたっていくビジュアルも楽しい。なお、項目間のリンクは自分で張る。項目間のassociationまで自動的にしてくれるKM系のソフトもあるけど、まだまだ今一って感じ。

MyBrainにまだまだ荒いところもあるのはVer2.01だからしかたないとして、果たして成熟した3.0が出るかは疑問。企業向けのバージョンは最近3.0が出たのだが・・・。この不景気で、個人向けの安いソフトなんか作っている場合じゃないかも。残念ですが。でも、今のバージョンでも結構役に立つ。項目にURLをアソシエイトすることもできるので、ブラウザーのFavorite代わりにもなります。

Posted by chika at 10:22 PM
December 29, 2002
XM Radio

クリスマス休暇でTahoeにスキーに行ってきた。

Nevada側から見たLake Tahoe。

私の住むLos Altosからは結構遠い。車で片道4-5時間はかかる。渋滞していたらもっとだ。で、その間ほとんどの場所で地上波ラジオが入らなくなる。

そこで活躍するのが、最近買った衛星放送ラジオ。音質はCDよりちょっと劣るくらいで約100チャンネル。衛星ラジオは最近誕生したビジネスで、XM RadioとSiriusの二社があるのだが、どうも二つともが生き残る確率は低い。買ってすぐ会社がつぶれたら受信機の費用約300ドルが無駄になる可能性がある。(XMとSiriusは受信チップが違うのでcompatibilityはない。切り替え可能なよう、両方のチップを搭載した受信ユニットもあるらしいが)後発のSiriusが不利との噂はずっとあったが、最近XMの優勢が確立したと判断してXMを買った。アメリカという国では、既存ユーザーが何十万人いてもある日突然「サービス終了」ということで、受信機がただの箱になっちゃうこともある。(ちなみに、クリスマスのちょっと前に「XMが4.5億ドルのファイナンス(増資+借り入れ)を確保した、とのニュース。これで当面は安心だ。)

これが受信機。アダプタを買えば家のステレオにも接続可能。

Siriusが不利な理由の一つはチップの開発が遅れたこと。衛星自体は、XM用よりSirius用が1年も早く打ちあがったのだが。XMの衛星は赤道上軌道にあるため、受信場所からの相対的な位置がシンプルで、チップ設計が簡単だった、との評判。一方Siriusの衛星は緯度の高いところにあるため、受信機から見た衛星の相対的な位置は8の字を描く。噂ではそのためにチップの設計が難航し、しかも最終的に出てきたチップ・サイズが大きくXMのような小さな受信機がつくれない、という致命的欠陥あり。その代わり、Siriusの衛星は北米大陸の受信者から見て高いところにあるので、受信感度がいい(はず)。

確かにXMは北斜面に入ると全く受信しなくなることがあった。

うちのダンナは昔衛星の設計エンジニアだったのだが、いわく「赤道上の衛星なんてつまらない。やっぱり8の字じゃないと、設計のしがいがない」。うーん、、、、Siriusはこういう設計者の好みで重要なビジネスの決断を狂わせたのかも。少々受信が悪くても、早くサービスを始めてたくさんのユーザーを獲得した方に加入者は流れる。

ちなみに、XMラジオを使ってみて、意外にも大きな満足感を感じたのは、アーティスト名と曲名がわかること。(写真の黒いスクリーンのところに表示される)うまくいえないのだが、これだけで音の楽しみが倍増する感じ。

それから、40年代から90年代まで、各年代の曲のみを流すチャンネルと、今のヒットを流すチャンネルがあるのだが、80年代と今ってあんまり変わってないような気がしたのも発見。特に「シンセサイザーを多用してない」「メロディアスな弦楽器(ギター・ベースとか)のソロが入ってない」という二つの条件を満たすものは、最近の曲といっても通じそう。一方で60年代の音楽は全然違う。私が80年代の曲を聴いて育ったからそう思うのか?最近の子供が80年の曲を聴くと、私が10代の頃60年代の曲を聴いたときのようなレトロな感じがするのかな?

60年代から現在までのチャンネルを行ったり来たりして比べながら、ふと80年代当時でも、Beatlesの曲には全く古さを感じなったのを思い出した。というわけで、「Beatlesの前と後で音楽は全く違うものになって、それ以降はBeatlesほどのインパクトを持つアーティストは現れていないのではないか」と感じたTahoeへの道のりでした。

Posted by chika at 04:29 PM
December 22, 2002
Merry Christmas

この1週間、やたらと停電が多くてBlogどころではなかった。私は結構山に近いところに住んでいるので、大雨が降ったりちょっと強い風が吹いたりするとすぐ停電してしまうのである。東京のような文明社会じゃないのだ。ロウソクでは読書もままらならないことを実感。昔の人は偉かったんだな。

明日からはクリスマスweekだ。一週間、盆と正月が一緒に来たような感じとなり、アメリカ国内は全く仕事にならない。

ダンナの勤める、Finance的にイマワノキワのスタートアップも1週間気前よく休みとなるので、我が家はスキー旅行へTahoeに行く。というわけで一週間Blogはお休みです。

Happy Holidays!

Posted by chika at 11:09 PM
December 16, 2002
Newspaper in US

アメリカの新聞って楽しい。まず新聞によって扱っている内容が全然違う。同じニュースの書き方が違う、というレベルではない。全く違うテーマ・事件を取り上げるのだ。しかも基本はローカル紙で地元密着。Wall Street Journal, New York Times, Washington Postなど、全国的に売られているものもあるが、それだって昔はローカル紙だったわけで。

私の住んでいるところだとSan Jose Mercury Newsか、San Francisco Chronicleのどちらか、というのが普通なのだが、この二つだけみても全然違う。前者はシリコンバレーに住む移民とハイテク労働者のための新聞。後者はサンフランシスコという都会に住む都会人向けの新聞である。

San Jose Mercuryがすごいなぁと思うのは、日本人でアメリカにトータル4年しか住んでいない私でも共感できる記事が多いこと。例えば、先週も「年末年始には、移民が子供をつれて3週間くらい自分の国に帰省してしまうことが多く、小学校は困っている」という記事が出ていたのだが、大きく写真入で取り上げられていたのは、香港出身のダンナを持つ日本人女性とその子供だった。ふむふむ、と感情移入して読んでしまう。スペイン語とベトナム語のバージョンまである。ワールドカップのとき、サッカーの記事を読もうとしたらそこだけスペイン語で断念したこともあった。

移民and/orハイテクの仕事をしている人という、「全国的に見たら超ニッチだけど、このあたりではマジョリティ」という人たちにに見事に対象が絞られているのである。さらに、長期的な取材に基づく記事が多いのにも驚く。1週間とかじゃなく、1年以上、特に長いものだと3年近い取材の成果の記事があるのだ。最低でも1-2週間に1回くらいは、その手の記事が掲載される。2-3週間前も、一人のアルツハイマーの男性とその家族を追って、男性まだ自分で判断ができた頃から、歩く事もおぼつかず完全介護になるまでの数年間の記事が出ていた。

日本人女性で自閉症の子供を育てている人の記事が出たこともあるが、これはこの女性本人にお話を伺ったところやっぱり1年がかりの取材だったそうだ。彼女はその記者の根気と深堀りにいたく感動していた。後日談としては、その記事を読んだ某日本の新聞社の記者から彼女の元に電話があり、「San Jose Mercuryを読んだんですが、取材させてください」と言われ、その電話一本で記事を書かれてしまった、なんてlazyな取材なのか、と憤慨していた。(ちょっと名前は伏せるが、かなりメジャーな新聞である)

今日のSan Jose Mercuryには、Birth of a Chip/A tale of innovation in Silicon Valleyと称して、Bay Microsystemsというネットワークプロセッサチップのスタートアップの、過去1年間の苦しい発展を追う記事が出ている。Bayの歴史を追ったより詳しいコラムがウェブに載っているので参照してください。

一方、San Jose Mercury Newsはニュースの遅い新聞だ。本当にNEWSなのか、といいたくなることもある。早起きが多いシリコンバレー向けに、どこの家にも夏は5時、冬は6時(どちらも、当地では真っ暗の夜中)には配達されるようになっている。そのため、夕方以降に起こったことは2日後の新聞にしか載らない。しかし、別に「早く何かを知る」ために新聞を読むわけではない。そういう「NEWS」はインターネットでリアルタイムでわかる。それよりSan Jose Mercuryにしかないコンテンツを求めて読むのである。多分そういう人が多いのを見越した紙面づくりなのだろう。

まぁ理由はともあれ、日本の新聞の記事で1年がかりで一つの物事を追ったものって見ない。日本の新聞記者の方に聞くと「それは雑誌の仕事です」とおっしゃるのだが、雑誌だって、日本では数年がかりの取材にもとづく記事なんて見かけないような気がする。もしかして私が気が付かないだけなんだろうか?

新聞の話に戻ると、発行部数で言えばSan Jose Mercuryはたったの30万部。朝日新聞なんかは800万部を越している。これだけでみれば、朝日新聞はSan Jose Mercuryの20倍以上濃厚な取材ができる余力(つまり記者への人件費支払能力)があるような気がするんだけど。

それとも、読者がそういう濃厚な記事を求めてないからそんな取材しても仕方がないってことなんだろうか?以前、日本の週刊誌の記者が「日本はアメリカと違って定期購読が少ないから、店頭で見かけて買ってもらえるような一発勝負的キャッチーなネタが多くなってしまう」と嘆いていたが、新聞だったら日本でも定期購読が多いはず。でもやっぱりどの新聞に早くニュースがでるか、というので競ってるような。

なんでなんでしょうか?


Posted by chika at 10:06 PM
December 14, 2002
Carlos Ghosn at Stanford Business School

日産のゴーン社長が先月スタンフォードビジネススクールで講演した。View From the Topというスピーカーシリーズの一環。スタンフォードのウェブサイトの一番下のリンクからReal Videoで一部始終を聞くこともできる。

その中で、彼が社長就任後日本の様々な識者に話を聞いた際、ありとあらゆる「日本ではできないこと」を言われた、とある。いわく
They told me "you can't close plants in Japan, you can't reduce headcount in Japan, you can't eliminate seniority based system....."
しかし、全てやってみたらできてしまった、というのは誰もが知るところ。

3年前まで多くの日本の会社のトップが「レイオフはできない」と言っていた。工場のラインは止められない、人は切れない、一度はじめた事業はやめられない、と。しかしそうして手を打たずにいる間に傷が広がり、ついに「できない」はずのレイオフが始まっている。しかも、もっと早く決断していれば済んだであろう規模より大きなレイオフであろう。明らかに、「レイオフはできない」のではなく「レイオフをしたくない」だけだったのだ。

「したくない=I don't want to」と宣言するのは苦しい。それは自分の選択だからだ。一方で「できない=I can't」と言うのは楽だ。自由意志による意思決定を放棄し、自分と関係ない外的な要因を原因とするのだから。

小さな子供に何かを言いつけると「できない」ということが良くある。「おもちゃを片付けなさい」「できないよー」「片付けなさい」「できない」「できるでしょ」「できない、びえー(泣く)」。まぁ、「レイオフはできない」と言ってた人たちもこれとあんまり変わらんですな。

Posted by chika at 07:12 PM
December 12, 2002
創造の原点

昭和17年に東工大の教授によって書かれた「創造の原点」をある方にいただいた。欧米と日本を比較して、サイエンスでのイノベーションを起こすにはどうしたらよいかをテーマにしたもの。

まず全体を通じて、昭和17年の時点でありながら、今でも通用する教訓が語られているのに驚く。例えば『いずれの団体でも、それが最も有効に活動するには首脳者の独裁の場合のように思う。・・・「大功を成す者は衆に謀らず」・・・は至言と思う。』これは研究所の所長は暴君ではあってはいけないが、独裁者でなければならない、ということを説いた部分。

一方で時代を感じるところもある。「日本人の智力は欧米人に劣らない」ということが発見のように語られているところもあり、その頃の一般的日本人がいかに欧米に劣等感を持っていたのかを再認識する。また、当時日本人は外国の研究所や工場から閉め出されつつあったらしい。『ことに尖端的進歩から閉め出しを食うようになった』とある。今中国が世界の与えているような脅威を、日本が世界に与えつつあった時代なのだろう。しかし、中国といえば、今のシリコンバレーは中国人がわんさかいる。大学もそうだ。シリコンバレーが中国人を閉め出すことは将来ありえるだろうか?私は「ない」と思う。急速に伸びる国があれば、その力を自分のものとして取り込む柔軟性がある場所がシリコンバレーではないか、と。もしそれができなければ、この地は衰えていくだろう。

一方、「創造の原点」が書かれてから長い月日がたち、世界で二番目の大国になった今でも、日本ではまだ海外との比較で相対的に自国の問題点を語ることが多いのは、少々残念な思いがする。ベンチマークは重要だが、例えばアメリカとの比較で語ると「全てがアメリカ万能なわけではない」「アメリカンスタンダードを押し付けられる」といったような本質とは異なる論議に流れてしまう。(問題はアメリカという国がよいか悪いかではなく、日本がどうやって問題を解決するか、であるにも関わらず)

これを防ぐには、日本と海外との比較をもう一段階抽象化して、その中から「日本的」「アメリカ的」「欧米的」というレベルを超えた真理を探究し、それに基づいて自国の問題を解決する、という「根気」が必要だ。でも、日本人って体力ないから、こういう根気もないんだよなぁ・・・。

Posted by chika at 09:45 PM
December 11, 2002
日本の痴漢(1)

昨日のBritneyストーカー話の続きで、日本にどれほど、驚くほど、信じられないほど、たまげるほど、開いた口がふさがらないほど痴漢がいるかについて。

私の試算では「東京には朝の通勤列車だけで、activeな痴漢が2万人以上いる」のだ。

東京は安全な都市だ(orだった)と何の疑念も持たずに信じている人が多いのだが、少なくとも女性が一人暮らしをするには、決して安心な場所ではなかった。アメリカは犯罪のあるところとそうでないところがきっかりと分かれているから、今住んでいるところのほうが、碑文谷で一人暮らしをしていた頃よりずっと安心できる。

特に東京でひどかったのは痴漢である。

20代の前半、とても混んだ電車に乗って通勤していた。車内は時々骨折する人が出るくらいの混雑ぶりである。大変情けないことに、とある海外の国の高校生用教科書に「日本の殺人的通勤ラッシュ」というタイトルで掲載される写真に選ばれたのも、この駅の朝の情景だったくらいだ。この駅から都心の終着駅まで全くとまらない電車があって、これが速いのでついつい乗る。いったん閉まったドアは20分近く開かない。すると、「痴漢の温床」になるのだ。とはいっても、他の路線の電車に乗っても、夜の電車でも、痴漢に遭遇した。平均して1週間に2-3回というペースで痴漢に会い続けた。

しばらくたつと、プラットフォームで待っていて、電車のドアが開いた瞬間に、車内を見てどの人が痴漢かわかるようになった。別に同じ痴漢に毎日会うのではない。ただ、「あ、この人は痴漢だ」とピンとくるようになったのである。嫌だな、と思うが、随分離れたところにいるから大丈夫だろう、と思う。しかし、5分もするとすぐ斜め後ろに来ていたりする。ぎょっとする。そして、そのうちじわじわと触ってくるのである。

こうして、大勢の痴漢を観察するうち、「痴漢行動原則」があることが判明してきた。

1)痴漢ターゲティング原則
「前に立ってる女の人のシャンプーのにおいにくらくらして、、、」みたいな痴漢の言い訳はウソだと思う。本物の痴漢は、ドアが開くたびに、じっとホームから乗ってくる人を観察して、どれを獲物にしようか判断しているのだ。通常朝の通勤電車に乗っている人はうつむき加減で疲れた顔をしているので、目線鋭くホームを観察する人はすぐ目に付く。この「鋭い目線」が「ドアが開いた瞬間に痴漢が見分けられるようになった」理由だ。超能力ではなかったのである。

こうして観察してみると、その人が私をターゲットとしてくるかどうかは別として、大体一つのドアあたり1-2人は痴漢が「必ず」いることに気づいた。一車両で5人として、8両編成だったら40人。朝の電車が500あるとして2万人の痴漢がいることになる!

2)痴漢逆とび原則
対象を定めたら、今度はそこに近づいていかなければならないが、痴漢は、異常に混んだ車内であっても、3メートルを5分で移動する能力を持っている。最初の頃は不思議でならなかったのだが、ある日その謎が解明された。その日は、最初から痴漢だと思っていた男が、1メートル右手前方にまで近づいてきていた。厳戒体制に入っていると、突然電車が激しく急停車し、車内全員が大きく右の方によろけた。その瞬間、痴漢は「左に(私のほうに)飛んだ」のである。「次のゆれが来たら近づこう」と万全を期していたので、激しいゆれの中、周囲と全く逆方向に飛んで、大変目立ってしまったのだった。

これを見て、「そ、そうか、これが痴漢の移動方法なのか・・・・」と納得した。

以下3)痴漢並行原則、4)痴漢無言原則、5)痴漢髪フェチ原則、6)番外編、へと続く・・・。

Posted by chika at 09:48 PM
December 10, 2002
Britney Spearsの日本人ストーカー

昨日の夜ニュースを見ていたら、「Britney Spears(21歳の歌手)が、41歳の日本人男性をストーカーとして訴えた」というニュースがあった。横浜在住のMasahiko Shizawa が、Britney Spearsの家や、両親の家などに出没、自分の写真に「I'm chasing you」というメモをつけて送ったりしている、というもの。
詳細はReutersの記事へ・・・・

ストーキングといえば日本人のお家芸...

97年に日本に帰ったとき、地下鉄に「痴漢は犯罪です」というポスターが貼ってあるのをみて、とてもがっかりしたのを思い出す。「こんな当たり前のことをポスターで啓蒙しないとならないのか」と。セクハラ・痴漢関係については山ほど言いたいことがあるのだが、またの機会に。

Posted by chika at 10:36 AM
December 09, 2002
ASPの時代は本当に来るか

日経新聞が日本株式会社の社内紙とするなら、シリコンバレーの社内紙はSan Jose Mercury Newsである。ビジネス欄といえばまぁ基本的にはハイテクのことしか載っていない。「ものごとは専業化することで進化する」と言ったのはドラッカーだが、アメリカという国は都市ごとに産業が特化している。SVでパーティーをしたら会話の内容はハイテクのことばかりだが、Washington DCでは政治のことばっかり、とはDC出身者の談。

さて、そのSan Jose Mercury Newsの今日の朝刊には、企業向けSFAソフトをASPで提供するSalesforce.comのCEO、Marc Benioffの記事が出ていた。「数千万円、数億円という価格帯で、しかも導入に何年もかかるような大規模企業向けソフトウェアの時代は終わり、安価にASPでソフトウェアレンタルをする時代が来る」とBenioffが宣言している、というもの。「The days of mega-sales that once fueled the growth of the $41 billion enterprise software industry are gone, Benioff said. In the new era, software programs will be sold in mass quantities for low prices like any other commodity. 」と。salesforce.comは、まだ未上場ながら2001年の売り上げが$60Mというから、日本のちょっとした上場企業よりずいぶん多い。

この記事の内容の面白い点は次の二つ
1)BenioffのOracleでの経験。彼はOracleがまだ売り上げ$55mだった80年代なかばにセールスマンとして入社、3年後にはセールスのVPをしていたTom Siebel退職を受けて、若干20代なかばにしてVPとなる。(このTom SiebelはあのSiebel Systemsの社長)「早い時期に大きく成長する会社でもまれる」というのは当地で確立された成功パターンの一つだ。ちなみに、Benioffはいまだ38歳。
ちなみに、Tom SiebelとBenioffは犬猿の仲で、Siebelが一等地に家を買ったら、Benioffはすぐその隣により大きな家を買ったとか。一方、BenioffとOracle社長のLarry EllisonとBenioffは犬猿の仲と言われているが、実は今でも一緒に休暇に行くような仲良し、とはSalesforceのインサイダー情報。

2)ソフトはまだまだ未成熟。記事内に、「Companies didn't dig wells to get their water, he thought. They didn't build power plants to get their power. So why should they spend years implementing software packages and fixing bugs, only to have to do it all over again each time they wanted to upgrade to a new release?」とあるが、私が以前建設関係からソフトウェアの仕事に移ったときにまさにそう思った。建築では設計図が書けたら、さくさくと建物が建つ。(失敗するのはトンネル工事くらい。それだって、まれだ)ところがenterprise softwareときたら、まったくそうではないのだ。「世界で最初の2階建ての家を建てたとき、階段の設計を間違って、二階にいけない家ができてしまった」と聞いたことがあるが、現代のソフトウェアはまだその段階に近い。

ASPで果たしてこれが解決するのだろうか?

いずれにせよ、米国ではCorioなどの第一期ASPはほぼ全て敗退したが、これからどうなるのだろうか。米国ベンチャー事情の項でも触れたけれど、「長い間ずっと唱えられてきているがなかなか実現しないことこそ王道の技術」である。何度も何度も失敗して、やっと花開くのが本物の大きな変化なのである。(逆に言えば、失敗せずにできるくらいの簡単なことだったら、それほどの大きな変化ではない、ということだ。)

そういえば、このBlogも、JoiがホスティングしているMovableTypeを利用させてもらって書いているのだった。こうしてじわじわとASPが浸透していくのだろうか。

Posted by chika at 08:51 PM
December 08, 2002
Autumn/Winter in Bay Area

晩秋である。日本ほどはっきりした四季はないのだが、一応。
庭に大きなMapleの木があるのだが、真っ赤に紅葉した。


当然のことながら、この木の周りはびっしりと落ち葉に覆われている。

当地の冬の食べ物といえばDungeness Crab。今年は豊漁でバカヤス。1pound (450グラムくらい)で2ドルから3ドルで買える(ただし中国人向けスーパーのみ。なぜか中華スーパーは全てが超格安なのだ。)というわけで、今日は生きたかにを2匹買ってきて、カサコソと動き回るのをそのまま蒸して食べた。甲羅が18センチくらいあるカニ2匹で11ドル、約1400円。気持ち悪くなるまでカニが食べられる。

[生きたまま蒸されたカニ]

カニといえば、San FranciscoのThanh Longというベトナム料理屋の「ベトナム風dungeness crab」を食べずして死ぬべからず。きついにんにく味のこってり油で味付けされているのだが、絶妙のスパイスが効いていて夢中で一人一匹食べてしまう。昔日本に住んでいた頃はときどき無性にこの店のカニが食べたくなって困った。
ここに行ったら、dungeness crab, garlic noodles、fried banana and icecream以外をオーダーすると後悔する。いつも狂乱の大混雑の店内では、ほとんどの人がこのコンビネーションなのに、なぜかメニューには100品くらい載っている。お店の人が何を考えているのかよくわからない。

Posted by chika at 09:08 PM
December 06, 2002
アメリカという国のマーケティング調査

「アメリカってどう思いますか」という世論調査が世界44カ国で行われた。結果を要約したLos Angels Timesの言葉を借りると「In the eyes of much of the world, America is an inconsiderate loner that has really good entertainment but really bad values.」ということ。

全調査結果はPeople Press Research Centerのサイトでダウンロードできる。なんか、こういう世界の理解の仕方って、とってもアメリカっぽい。とにかく何でもマーケティング調査、数値で理解、という国なのだ。

Posted by chika at 09:30 PM
Anno Nuevo(象アザラシ見学)


Thanksgivingの後の週末はAnno Nuevoという州立公園に行ってきた。野生の北方象アザラシ(Northern Elephant Seal)2000頭が集まる繁殖地である。私の写真の後ろのほうの砂浜にごろごろと転がっているのが象アザラシである。

州が運営する公式Anno Nuevoサイトは、リアルタイムでビデオストリーミングをしてくれる"Seal Cam"が楽しい。当地の夜は起動していないが、30分の録画ビデオはいつでも見ることができる。写っているアザラシはみなごろごろと丸太のように寝ているだけだが、ぎゃーぎゃーと鳴き声がするので、写っていないどこかで血みどろの戦いやmatingが行われているのだろう。なんといっても象アザラシさんたちは数ヶ月もの間モノも食べずに戦いと生殖に明け暮れるためにこのビーチにやってくるのである。

しかし、陸上では、ただの丸太。オス同士は覇権をかけて、流血の戦いをするが、それでもさっさと動くことはできないので、人間がその気になったらあっという間に皆殺しにできてしまう。19世紀には油目当てで乱獲され、1892年には世界中で、Baja California沖の島に50-100頭の群れが一つ残るだけになってしまった。その後、メキシコ政府、アメリカ政府の保護を受けて再度増殖し始め、今では16万頭いるらしい。めでたしめでたし。

Anno Nuevoの周囲にはハイキングやバイキング(自転車、です)ができる山やピーチがたくさんあるので宿泊。Costanoaというところにとまった。Costanoaは、camping designed by Martha Stewart、とでもいうべき「キャンプ場もどき」である。キャンバス地でできたテントのような小屋、ログキャビン、普通のホテルのような部屋などが選べる。私のキャンプ経験は、15歳のときオーストラリアで一回だけ。もう一度くらいしてみたいと思ったが、くさいシャワーとか寝袋とか、そういう「本物のキャンプ」はちょっとねー、という感じだったので、これ幸いと「テントもどき」を選択。バストイレは共同だが、部屋にはバスローブやAvedaのトイレタリーキットがあり、ベッドはヒーティングパッド付きだ。サウナやジャクジーもある。乗馬場もある。

翌朝は早起きして、Costanoaから15分ほど草の生えた砂丘を通り抜けて、太平洋の海を見に行く。波は荒くて強い。宿のパンフレットには
「海に背を向けないように」
と書いてある。
「突然足を波にさらわれ、そのまま強い潮に流されてしまうことがあります」。
それが誇張でないことがわかる強烈な波しぶきだ。波が砕けるところからしぶきが霧状に広がり、一面がパステル状のもやに覆われているように見える。一段高くなったところに座ってじっと波を見ていると、砂浜から20-30メートルのところに突然二頭の象アザラシが頭を出してきょろきょろと周りを見て、またさっと潜っていった。ここは鯨の回遊ポイントでもあって、運がよければ鯨が潮を吹いているのを見ることができる。そんな海をじっとみていると「こんなに大きな自然のごく近くに住んでいるんだなぁ。日常の細かい心配事なんてどうでもよいことだなぁ。」とおおらかな気持ちになる。日本の自然の中では「全ては土に返っていく」と感じるが、湿度の低いカリフォルニアでは「全ては風に返っていくんだなぁ」という感慨が迫る。

我が家は軟弱なので、山の上まで20キロ走る!みたいな、Californianが好むハイキングはちょっとカンベン、なのだが、3時間くらい山歩きをして、太平洋の波を見て、あとは暖炉の前で本を読む、というパターンが快適。また行きたい、と思ったCostanoa & Anno Nuevoでした。

Posted by chika at 09:20 PM
December 03, 2002
米国ベンチャー事情 (Microventures)

Microventuresという2日間のconferenceに行ってきた。半導体、ナノテク、MEMSなどが対象で、参加者の半数はVC関係。プレゼンテーションをする側はベンチャー企業で、1社当たり20分だけ時間を与えられて投資家向けに説明をするというもの。

主催者であるTechnologic Partnersの人とランチで隣になったので話を聞いたところ、今回の出席者は約290名。「去年の同様のconferenceでは500-600名が参加したのに比べると、寂しいものがあるけど、経済の悪さを考えたらまぁいい方だね」とのこと。

このconferenceではベンチャー企業は事業対象ごとに別の部屋を与えられ、同時に5-8社程度がプレゼンをする。コンスタントに人が集まっていたのは、センサー・イメージング関係。CMOSイメージセンサー、モーションセンサー、など。セキュリティーやコンテンツプロセッシングなど、従来ソフトウェアで行ってきたネットワーク関係の処理をチップ化する類のものはプレゼンする企業数も多く、コンスタントな集客だった。逆にデザイン・オートメーションツールやMEMSなどは4-5人しか観客がいないことも多いという状況だった。

ちょっと話がずれるけれど、1997年の後半から98年にかけて、私は三菱商事でXMLを追いかけていた。当時注目していた3社のうち、1社は買収されて大成功、もう一社はIPOをして、これも大成功。でも、当時XMLが実現するとされていたことは、いまだにほとんど実現されていない。去年の後半あたりからweb servicesというコンセプトが騒がれているけれど、そこで言われていることは97年ごろXML関係の会社が言っていたこととあまり変わっていないのである。良い見方をすれば、変わっていないというのは、そのコンセプトが王道である、ということの証である。まずビジョンがあって、それを10年以上かけて切々と作り上げる、というのが王道の技術の進む道だ。

ちなみに、その後、99年にマッキンゼーでとある電機会社のプロジェクトをした時、「E-commerceに参加するtrading partnerや金融機関・輸送会社などのservice providerのディレクトリ、およびXMLの処理などを専門に行うハードウェアがネットワークのノードに出現する。だからそれにむけて、チップやルーターのハード開発を行うべきだ」と力説した。。。のだが、「なにそれ」っていう反応だったなぁ。まぁ、「全社インターネット戦略」というテーマのプロジェクトだったから、あまりにディテールに入り過ぎていたともいえる。しかし、今回のconferenceで、IntelからスピンオフしたTarariなどがcontents processorを発表しているのをみて、「私は間違ってなかった」と一人静かに満足したのだった。

さて、Micorventuresの話に戻ると、Keynote Speechでシンクタンク、Institute for the FutureのDirectorのPaul Saffoが面白いことを言っていた。
「20世紀の最初の三分の一は化学が新たな産業を牽引した。次の三分の一は物理だった。そして最後の三分の一はITだ。化学の時代も、物理の時代も、その最後には戦争があった。そして、その戦争は前の時代の技術を最大限に駆使した者が勝った。第一次世界大戦は化学兵器、第二次世界大戦は原子力兵器だ。ITの時代の終わりを告げる戦争はまだないが。」
前半の化学、物理、ITという流れ自体はそれほど目新しいものではないが、「戦争で終わる」というところは面白い見方だ。そういう意味では、今のテロとの戦いはかなりの部分IT戦争である。どれほど爆撃をしても、テロのネットワークを壊滅することはできない。それより、網の目状に広がるアメーバのような情報網の中から意味のある情報を探り出していくことが必要になっている。ということは、このテロとの戦争が終焉したときがITの時代の終わりなのだろうか。(Saffo自身は、「戦争なしでもITの時代が終わる可能性はある」としていたが)

それから、中国の半導体産業の動向、というパネルディスカッションがあった。一人のパネリストが「2年前、中国でVCであることはファッショナブルだった」というコメントをすると、聴衆からはクスクスと笑い声。「アメリカでも二年前VCであることはファッショナブルだったよねぇ」という自嘲的笑いである。同じパネリストいわく、「2年前中国には250のVCがあって、そのうち30%はアメリカドルベースのファンドだったが、それ以外は人民元ベースだった」。一応建前上共産主義の国でVCが250もあるってどういうことなんだ。中国人と話すと、知り合いの事業に投資をするのが当たり前のように語られて驚くが、その延長線上でさくさくとVCが作られたのだろうか。

それにしても。こうしたベンチャー企業が集まってプレゼンするイベントで特に感じるのは、大企業の内部でほとんどのイノベーションが起こる日本と、ベンチャーでイノベーションが起こるシリコンバレーとの違いである。後者に関しては「起業のエコシステム」とか体系的なことがよく語られるが、それよりも「まだ開発途中の多くの技術情報が開示されるため競合が激しくなり、その結果としてよりよりものが早く開発される」というプロセスのメリットが大きいのではないか。今回のconferenceでも、競合企業のCEOや投資家がプレゼンを聞いて、既にどこまで技術が実現しているのか、どんな顧客を獲得したのか、重要ターゲットセグメントは何か、それはなぜか、今後のロードマップは何か、といった質問をしてメモを取っている。今回のconferenceと同様のフォーマットで行われた別のイベントでは、あるベンチャーのプレゼンが終わるや否や廊下に出て電話をしている人がいた。漏れ聞く会話は「They are coming with 1 chip solution, and samples are coming out next month! Shit!! We are screwed! Oh, shit!!」という切実な「負けつつある競合の悲鳴」だった。(excuse the language..)

もちろん、日本でも企業間の熾烈な競合はある。しかし、開発の早い段階でその状況が明らかになることはあまりない。ところが、シリコンバレーではビジネスアイデアの段階から投資家や雇用したい人材などに、どんどんアイデアを説明しなければならない。

今回のSaffo氏のスピーチでも、「最初にインターネットが作られたのはヨーロッパだった。しかしそれを事業として大きくしたのはシリコンバレーだった。」と。

R&D;のごく初期から外部と切磋琢磨することが、シリコンバレーの「アイデアを事業として発展させる力」に貢献していることは間違いない。

Posted by chika at 07:26 PM
December 02, 2002
Black Friday(買い物天国)

先週の木曜日はThanksgivingであった。友達の家で、20人ほどで集まって七面鳥のディナー。Thanksgivingは無宗教のイベントのため、誰でも楽しめるところがポイント。(クリスマスは、クリスチャンだけのお祭りなのだ。)

アメリカ人が国民平均3000カロリーを摂取するThanksgivingが終わると、その翌日の金曜日はBlack Fridayと呼ばれる買い物に狂乱する日である。

多くの店が朝7時には開く。中には、朝5時から営業するところすらある。そして一日限りのセールを行うのだ。(全品20%オフとか。)買い物客の中には、前日の夜中から並ぶ人もあり、その有様は尋常ではないらしい。(といっても、私はこの日に買い物に行ったことはないのだが、テレビなんかで見ると、凄いことになっている)

うちのダンナは、朝9時半ごろいそいそとFry'sに買出しに行ったのだが、(ちなみにFry'sは7時開店だったので、「10時近くなればひと段落しているのでは」と期待しての出陣である)店の前には、100人を超す長蛇の列ができていたので、あきらめて帰ってきた。

この日がBlack Fridayと呼ばれるゆえんは、「小売業者が、年間を通じて初めて年間の塁損を一掃して黒転する日」ということ。要は11月の最終金曜日から12月のクリスマスまでで利益をたたき出すのである。

ちなみに、トイザラスは北欧の国に出店したとき、「クリスマス商戦に間に合うように開店して、一年分のセールスをあげるのだ」と11月の終わりごろに開店したところ、その国では最大のおもちゃを買うシーズンはなんと10月だったので、1年間閑古鳥だった、という失敗談がある。現地の人に聞けば一発でわかったのに。わが道を行くアメリカ人らしいエピソードである。

Posted by chika at 07:22 PM