新しいサイトに引っ越しました。全過去エントリーも丸ごと移しました。
http://www.chikawatanabe.com
へどうぞ。

March 31, 2003
JTPA Newsletter

JTPAというボランティア団体をやっているのだが、その一環で何人かで集まってせっせと作っているNewsletterがある。まだ始まったばかりで試行錯誤中だが、その3号目である4月1日号がやっとできて、今発送したところ。謎の気合入りです。

Posted by chika at 10:02 PM
March 27, 2003
時事ジョーク

戦争ネタ系ジョークをいくつか紹介。アメリカ人が一枚板で戦争賛成ではないことがちょっとわかると思う。

老舗のThe Onionのトップページは戦争一色という感じ。

「Bushが自ら戦場に」というのでは、
"There may be some folks out there, born silver spoon in hand" "but that ain't Bush. No, that ain't Bush," "He ain't no fortunate son."ということで、ブッシュはただのドラ息子じゃないという締めで、つまり本当はただのどら息子だと揶揄している。"born silver spoon in hand"はボンボンということですね。

「US forms its own U.N.」は、UNの賛同が得られないのに痺れを切らしたアメリカが自分たちだけでUNを作るというもの。
"We've got Bill Frist from Tennessee, Tom DeLay from Texas, and Dennis Hastert from way up in Illinois," U.S.U.N. delegate Rick Santorum said. "Despite the diverse backgrounds of the delegates, cooperation has not been a problem"
ということで、「アメリカが世界」と思っているアメリカ人を笑っているのである。

「デモクラシーを愛したに違いない、アメリカの空爆で死んだイラク人」
となると、ブラック度は高まって、「夫が生きていたら、やがてアメリカがもたらしてくれることになるはずのデモクラシーを気に入ったことと思う」と未亡人が語る、というもの。もちろんこれは、「アメリカのイラク参戦はイラクのためとかいいながら、イラク人の命を奪うもの」という皮肉。

「参戦擁護者・反対者の議論」は、論理的にイラク攻撃を批判する反対者に対して、擁護側は「とにかく俺を信じろ、全て大丈夫だ」としか言わないというもの。

The Onion以外では、今はもう更新されていないSatire Wireのもので、悪の枢軸(Axis of Evil)のものはジョークとしてのレベルが高い。「偉そうなAxis of Evilに対抗し、リビア、中国、シリアがAxis of As Evilを結成した」というもの。その知らせを聞いた北朝鮮のKim Jung-ilが
"Right. They are Just as Evil... in their dreams!" "Everybody knows we're the best evils... best at being evil... we're the best." といって怒り、フセインは
"An Axis can't have more than three countries," なぜなら、第二次世界大戦のEvil Axisは日・独・伊だったからと宣言。

それを受けて、他の国々が3国ずつまとまっては続々と新たなAxisを形成する。
"Cuba, Sudan, and Serbia said they had formed the Axis of Somewhat Evil, forcing Somalia to join with Uganda and Myanmar in the Axis of Occasionally Evil"以下延々と続く。

最後は
"Israel, meanwhile, insisted it didn't want to join any Axis, but privately, world leaders said that's only because no one asked them."と、おなじみのユダヤ人ジョーク。

***

ということで、アメリカ人だって自分を笑い飛ばすことができるのでありました。

Posted by chika at 11:48 PM
March 26, 2003
将来を考える国・現在を考える国

シリコンバレーに住む日本人2人からもらった、彼らの今回の戦争についての意見のメール。私自身の気持ちにとても近い。

一人は、
「今朝テレビで、フロリダの基地で演説しているブッシュを見ました。
いつもの Freedomとか Peace等の美辞麗句が並んで、悦に入っている彼の顔を見ると、生理的に嫌気してしまいます。」
という。いや、その通り。芝居がかってると言うか、重みがないと言うか。

しかし、同じ彼はまた
「いっぽう、私の職場には湾岸戦争後にイラクから亡命してきた人が働いてます。
彼は、やはりフセインが大嫌いで一家ともども国を離れ、USで暮しています。」
ともいう。

そうそう、そうなんだよなぁ。実際アメリカで暮らしていると、アメリカの鼻持ちならない嫌なところの陰に隠れた良いところが見えてくる。例えば、国を追われた人・発展途上国で貧困に苦しむ人を大盤振る舞いで受け入れてきたところはやっぱりえらい。安価な労働力を増やすとか、世界の頭脳を集めるとか、下心はあるかもしれないけれど、理由はともあれアメリカの大盤振る舞いで結果的に救われた人はいっぱいいる。しかも、アメリカという理念とシステムを受け入れさえすれば基本的には誰でも「アメリカ人」になれる。(これがどれくらい変わったことかは、「日本人」の定義を考えれば明らかだろう。7世代くらい日本でreproductionを繰り返さないと「日本人」になれないんじゃないだろうか。参議院議員のマルティ・ツルネンさんを「日本人」だとあっさり思う人は少ないはずだ)。

というわけで、アメリカには「アメリカという国があってよかった」と胸をなでおろしつつ生きている人がそこここにいる。

***

もう一人は、イラク攻撃の根拠の薄さに不快感を示しつつもこういう。
「私は基本的にHusseinのようなヤクザ的存在は大嫌いですから、害虫退治も理解できます。ヨーロッパの国々みたいに、『腫れ物に触らない』『ヤクザとは共存しよう』という態度にはゲロゲロです。」

9・11はアメリカという国に対する宣戦布告だった。少なくともアメリカに住む多くの人々はそう思ったはずだ。以降、アメリカは一人で戦争状態に突入している。他の国から理解されないまま、アメリカは1年以上も戦っている。

その戦争の中、「このままテロを放置したら、将来さらに激しいテロが起こる可能性がある」という「最悪の将来シナリオ」を考えて、「テロを擁護(しているかもしれない)イラクを攻撃する」という現在の行動を起こしたのが、今回の戦争とも言える。石油を確保するとか、これまた様々な「下心」が取りざたされるが、「表向きの理由」であるところの、「アメリカを守る」というのも決して嘘ではないと思う。

アメリカという国は「将来を深く考えて行動を起こすことが得意な国」である。「将来起こるかもしれない問題を未然に解決するために、最善の行動をとる」ということがビジネス、政治から医療まで深く浸透している。Silicon Valley & Autismに書いたように、2歳半の子供に自閉症の可能性があったら、その診断が不確かであっても治療を開始する国だ。こうした「将来の問題を解決するために今行動を起こす」ということが、今回の戦争の背景にあり、これが正しいと思う人が多いことが、10人に7人以上のアメリカ人が、今もなお参戦を支持する理由の一つだろう。(「兵士が国のために戦っている以上は、戦争に反対したくない」というのも、私の会うアメリカ人の多くがいう理由ではあるが)

対して日本は「現在を深く考えて行動するのが得意な国」だ。小賢しく理由を問うことなく、プロセスに磨きをかけて「一期一会」の一瞬を「今」に実現しようとする。アメリカ型と日本型、いずれにもメリット・デメリットがあり、どちらがよいというものでもないが、この二つのいずれかの思考方法にどっぷりつかった人が相手の思考パターンを理解しようとするのは難しい。

加えて、「ヨーロッパは過去を深く考えて行動するのが得意だ」と言えると美しいし、知ったかぶり・聞きかじり・読みかじりの知識では多分本当にそうなんじゃないかという気がするが、残念ながらそこまでヨーロッパ人の深層心理を知らないので、これはわからない。

Posted by chika at 11:23 PM
March 23, 2003
身近な戦争

戦争である。ローカルテレビの天気予報まで、San FranciscoからNapaにかけて明日は雨、と言った直後にイラクの天気が出て、一瞬「Bay AreaにBaghdadという地名があっただろうか」と戸惑ってしまったくらい。

この戦争について語れるほど、私はイスラムとユダヤ問題も、石油事情も、Al-Kaedaとイラクの関係も深く知らない。かといって、戦争を見ない振りして他の事を語る気にもなれない。なので、「私の身近な戦争」について。

***

私にとって戦争はいつも「歴史上のできごと」だった。その帰結が全て明解になった何十年後かに分析されて語られる「戦争」。善悪の評価が付いた後で語られる戦争。全ての人が第3者として、評論家として語る戦争。

私の身の回りで一番戦争に近かったのは、軍人だった父方の祖父だろう。第二次世界大戦で太平洋の島々に戦いに行ったらしく、軍服の写真が田舎の家には飾ってあった。白黒でピンボケでほこりをかぶっていた。しかし、祖父からは一度も戦争の話を聞いたことはなく、私にとっての戦争は古ぼけたフレームに収まった白黒の写真そのままに、抽象度が高いままだった。

***

アメリカに越してきてから、ダンナと友達夫婦と4人で食事をしたときのこと。ダンナの両親は中国の国民軍で、共産党革命で本土から逃げて台湾に渡った、という話になった。彼の父親は、まだ小さいうちに、他人の家の豚小屋なんかを転々としながら命からがら逃げて海岸線に辿り着き、やっとの思いで船に乗って台湾に着いたらしい。母親の方は、もう少し裕福だったので、そこまで悲惨な逃避行ではなかったようだが。

友達のほうは奥さんが中国系、ダンナさんがベトナム人である。奥さんの両親はうちの義理の両親同様、共産党革命で本土から台湾に渡ったくちだ。しかしダンナさんの方は、自分自身がベトナム戦争を逃れてきたのだ、という話になった。当時7歳くらいだった彼は、父親が軍人だったので、サイゴン陥落時の米軍の最後の船に乗って、アメリカに亡命してきたのだそうだ。最後は、それはあわただしく、父親が突然血相を変えて家に走りこんできて、着の身着のままの家族を取りまとめて港まで走ったのだという。父親が家に来てから陥落まで30分もないという、生死をかけた一瞬だったらしい。「でも、僕は子供だったから、大勢子供も乗っている船旅は結構楽しかったよ」と笑っていたが。

ベトナム戦争は、一応私は記憶にないでもない。2歳くらいの頃にベトナム戦争に反対して焼身自殺した女性を主題にした「フランシーヌの場合」という歌がはやったが、そのサビは今でも歌える。でも、やっぱりベトナム戦争は「歴史上の出来事」という認識しかなかった。もしくは「テレビの中の出来事」と言ってもいいだろう。

サイゴン陥落の日に走って逃げた彼は私とほぼ同じ年だ。アメリカでは大学院まで出て、今はシリコンバレーのハイテク企業で普通にプロダクトマーケティングなどしている。そんな「普通の人」が、映画かテレビの一場面のように生きるか死ぬかの瀬戸際を走って逃げてきた、という違和感。

食卓を囲む4人のうち3人までが自分か両親が戦争(か内乱)を脱出してきて、私だけが「戦争は歴史上の出来事」と思えるような平々凡々たる恵まれた人生を送ってきていたのだった。

***

それ以外でも、当地では、「父親が暗殺された」フィリピンの女性、内戦下のニカラグアでアントレプレナーとして事業を成功させた男性、などなど、「緊迫した情勢をかいくぐってきた人」に時々出会う。

そうした「自らが戦争の近くにいた人たち」を間近に見た後での、今回の戦争で思うのは「私だったらどうするだろう?」ということだ。「歴史上のできごと」ではなく「自分にも起こりえること」として考えるとき、その判断はとても難しいものになる。

私がブッシュだったらどんな決断をするか?次の巨大テロを起こさないためには、いったい何をしなければならないのか?UNのバックアップを取り付けることは可能なのか?可能でないということはいつ判断すればいいのか?

***

日本の母親が「アメリカ人は80%も今回の戦争に賛成だと聞いた。けしからん。」といって怒っていた。どこから取った数字かわからないけれど、多分本心から賛成している人はそんなに多くないはず。ただ、いったん戦争が始まった以上賛成する、という人は多いのは確か。20歳前後の若者が多数戦場で戦っている。「国のために命を懸けて戦う人がいる以上、簡単に戦争反対なんていえない」という人たちがたくさんいるので。

当事者として、実際に起こっている渦中で、ものごとを判断していくことは、複雑でとても難しいことなんだなぁ、というため息が結句です。

Posted by chika at 12:52 AM
March 19, 2003
景気と戦争

今日、昔隣に住んでいたMikeと話した。MikeはVerityという公開企業のVP of marketingである。売上げは2Q前に底を打って、回復基調だそうだ。しかし、そう話している最中にバグダッドへの攻撃が始まった。戦争ともなれば、最低数週間は企業活動がストップするから、またしばらく様子見だ、と苦笑。

著しく優位性を持った最新鋭の軍事力を持つアメリカの侵攻が今まさに起こっているかと思うと、なんだか自分のしていること全てが空虚なことに感じられる。早く終わることを祈るのみ。

Posted by chika at 11:19 PM
M&A;と株価

M&A;では通常、売り手の会社の株価が上がり、買い手の会社の5-6%株価が下がる。「高買いする」という経験則があるからだ。これはインターネットオークションなどを経験した人ならわかると思うけれど、ついつい「買う」ということに興味が集中してしまい、リーズナブルな値段より高い値段で買ってしまうことが多い。

半導体メーカーのGenesisが同業のPixelworksを買うことが発表されたが、今回は買い手ののGenesisの株が上がった。San Jose Mercuryの"Genesis to acquire Pixelworks"という記事には

Genesis shares rose 3.4 percent Monday. Pixelworks shares fell 21 percent

とある。

なぜだ、と思ってReutersの発表の方ををよく読むと、実はreverse mergerで、Pixelworksの方がGenesisの株をプレミアムを払って買い取るような形(つまり通常の逆)で、しかし結果的にはGenesisがマジョリティーを握ることになるのである。いろいろなワザを繰り出すものだ。

ちなみに、HPがCompaqを買収すると発表した日、HPの株価は1日でなんと19%下がった。

***

一方「戦争が来る」という恐れで低迷していた株価が、Bushの演説で戦争が始まることがほぼ不可避となったことが明らかになるや上昇。「不確実な状態で待つよりも、さっさと戦争が始まる方が、さっさと終わる可能性が高いので好ましい」ということらしい。いかにももっともらしい理由ではあるが、よく考えれば「不確実な戦争より確実な戦争の方が好ましい」という全くもってわけがわからない屁理屈ではないか。Sorosが「reflexibility」という言葉で、「株価は経済原則じゃなく、心理戦」というのような意味のことを表現していたが、まさにその通り。詳細は、Financial Timesの記事"Wall Street welcomes clarity on Iraq"にあるとおり、

At 1230 GMT the Dow futures were up 108 points, after the Dow soared 282 points in the previous session. The S&P; 500 futures were 9.4 points above fair value and Nasdaq futures were 13 points higher.


しかし、Bushの演説を聞いても全然怒りを感じない。日本にいるときは、日本の政治や経済のニュースの多くに、心拍数が上がる怒りを感じたのに。なぜだろう、と考えた。やっぱり距離があるから、だろう。アメリカという国と私の間の距離だ。Bushの演説でも「なるほど、イラクの兵士に語りかけたりするんだ。」とか、「ということは、実はイラク国内クーデターの可能性も探っているのか」とか、Bushの意図を探るという好奇心・知的関心の方が強い。

適度に距離があるというのは心の平安を保つにはなかなかよいことなのである。

Posted by chika at 12:19 AM
March 16, 2003
人生とお金

IP Infusionのファウンダーの吉川さんと話していたら、「ある人に『できれば40までに家に300万ドル入れろ。最低でも100万ドルは入れられるような人生設計をしろ』といわれた。考えさせられた。」と。IP InfusionはSan Joseにあり、Intelからも出資を受けているrouting softwareを開発する会社。

額については、吉川さんと別れた後で「税前かな?税引き後かな?」とか、「トータルで家に入れるお金かな?それとも余剰資金かな?」とかいろいろ考えたのだが、多分「税引き後・余剰資金として、40までに300万ドル」ということじゃないかと思った。(吉川さん、違っていたら教えてください)

そう思った理由はこんなところだ。
1)シリコンバレーでは40半ばから転職-abilityが低下する
2)ということは40代前半までに、その後の人生のかなりをカバーできる蓄財をしておくのが安心
3)人生何歳まで生きるかわからないから、元本は手をつけず、利回りだけで食べていけないとダメ。100万ドルで5%で運用したら5万ドル、シリコンバレーより生活コストの安い地域に移れば生活していける。300万ドルあったら、家購入で100万ドル使ったとして、残りの利回りが10万ドル。これだったらシリコンバレーでも暮らしていける。

ちなみに吉川さんはまた同じ人に「事業に自分の金を投入するな。リスクが高すぎる」とも言われたと。起業はハイリスク・ハイリターンだが、起業家の人生は起業家が守らなければならない。無防備・無手勝流では危険過ぎるのである。

***

吉川さんはまた、
「日本に住んでいたときは3000円のワインを安いと思って買っていたけれど、今は14ドルを越したらちょっと考えてしまう」
とも言っていた。確かに私も日本では3000円のワインを軽い気持ちで買っていた。でも今は、家で普段飲むなら10ドル以下、ちょっと友達でも来るというときで15ドルくらい。ベルギー出身のちょっぴりノーブルな雰囲気の友達がいるのだが、彼の家のパーティーで一本1ドル99セントのワインが山のようにサーブされたこともあった。(といっても、Napaの結構まともなワインなのだが)

***

昨日ダンナと車で出かけたら、途中で銀行に寄りたいという。何かと思ったら溜まった小銭を貯金するのだった。(銀行は土曜も営業している)

家に、「電動小銭振り分け機」があって、25セント、10セント、5セント、1セントと、コインを分類、いっぱいになると筒状の紙でラップする。それが溜まったら銀行に持っていく。いつもながらマメなことだと感心して、銀行の駐車場で待っていたら、隣に高級そうなレクサスが止まって、そこからアジア系の男性が降りてきた。見ると手に大きな布の袋を持っている。明らかにコインがずっしり入っている感じ。彼も小銭を貯金に来たのだ。

昔日本で同僚だった30代の男性が、いつも会社の机の引き出しに小銭をポケットから移していて、いっぱいになると、引き出しごと引っ張り出してゴミ箱に捨てていたのを思い出した。さすがにそこまで大雑把な人も少ないかもしれないが、「高級車に乗って銀行に小銭を預けに行く」って、日本だったら守銭奴扱いだろう。週刊誌の表紙の見出しになりそうだなぁ、なんて思ってしまった。

「1円を笑うものは1円に泣く」ということはよくわかっているのだが、やっぱり私はお金の大切さが骨身にしみてわかっていない。ダンナやレクサスの男性を見て、つくづく思った。

***

日本にいた頃、「お金というのは、最低限の生活に困らないくらいは、空気のように自然に存在する」と思っていた。最近日本から来る若い人と話していても「お金は特にいらないんです」といわれることが多い。でもそれは「最低限生活する程度のお金には一生困らないはず」という暗黙の前提があって「それ以上のお金は特にいらない」と言っているのに違いない。まさか、「ホームレスになってもいいんです」という意味ではあるまい。

でも、職業の安定性が非常に低く、老後の蓄えも自己リスクに負かされている当地の生活の中では、昨今の不景気もあって、「金がない老後は惨めな老後」というイメージがリアルにある。「一生毎日安心して生活できるだけのお金をどうやって手に入れるか」というのはとても重要な命題なのだ。

当地では、金銭的に成功することを「financial freedomを手に入れる」という言い方をすることが多い。financial freedomは「それ以降の人生でお金の心配をすることなく生きていける額のお金を手に入れること」ということになるので、通常は数百万ドル以上となろう。

***

昔日本である著名な独立コンサルタントの人が「自分は年収が1000万円あれば満足」と言っていた。でもそれって「生涯にわたって毎年1000万円使えたら満足」という意味なんじゃないだろうか。とすると、利回りがほぼ0に近い日本ではあるが、なんとか3%で回すとしても3億円超の貯金がリタイアするときに必要。30年で3億円貯めるとしたら(利子がないと仮定して)毎年1000万円ずつ貯金しなければならない。税引き後で1000万円貯金するには、3000万円くらい年収がないと無理なんじゃないだろうか?

プロとして通用する年数が、スポーツ選手的に短いシリコンバレーでは、もっと急速に蓄財しないとならないことになる。みんなそのリスクを感じているから、トータルで年収が30万ドルを超すような夫婦でも質素な生活の人が回りにはとても多い。

***

「いつかはリタイアする」
「リタイアした時点で、それ以降利回りで生活していけるだけのアセットがある必要がある」
この二つのことが、なんだか日本にいるときはぼやけてわからなかったような気がする。(年金はやむなく積み立てていたが、絶対まともに支払われることはないだろう、とは思っていた)単に若かっただけかもしれないけれど、やっぱり「お金は空気のように自然に供給されるもの」というわけのわからない信念があったような気がしてならない。

日本では、多くの若い人がフランスやイタリアの十万円を越すような鞄を買っているようだが「老後の蓄えは大丈夫?」と他人事ながら不安になってしまう。

Posted by chika at 09:24 PM
March 15, 2003
Freedom Fries

戦争反対の立場を貫くフランスに抵抗して、議会食堂がFrench FriesをFreedome Freisに名称変更。もちろんFrench ToastはFreedom Toastになった。詳しくはCBS Newsへ。

Lebanon Daily Newsにまで書かれている。

そんなこと本気でするか、と思うがしてしまうのだな。もちろん国民は笑っている。友人たちとのディナーでも「Congressがそんなことに時間を使ってる場合か」と怒りながらもみんなで大笑い。

しかし、Yahoo UK&Ireland;によればFrench Fryは実はベルギー発祥の食べ物だから、お門違いと。確かに昔ベルギーに友人を訪ねて遊びに行ったら、そこここの街角の屋台でFrench Fry(とは彼らはもちろん呼ばないが)が売っていた。本場ベルギーではマヨネーズをつけて食べる。

***

ちなみに、ある国(や地域)の名前が付いた食べ物が、その国(や地域)にいくとない、というのはよくあること。アメリカンコーヒーがアメリカではない。というか、標準的に飲むのが薄いアメリカンコーヒーだからだが。

ドイツでは「ハワイアントースト」というものがあるらしい。パイナップルが乗ってる子供に人気の朝食だそうだ。ドイツ人がハワイにバケーションでやってきて、ホテルの食堂で高らかに「ハワイアントースト」と頼んで変な顔をされた、とか。

食べ物じゃないけどよく知られている表現ではGo Dutchがある。割り勘。オランダで、現地の大学生に「Go Dutchってどういう意味か知ってる?」と聞いたら
「知らない」ということでした。やはり、というか意外にも、というか。

彼は続けて「だけど、きっと『ケチ』に関係することでしょう」と、かなり正しい推測。オランダ人はヨーロッパ中からケチの評判をもらっているんだそうだ。説明してあげたら「確かに僕たちはいつでも割り勘だ」と。さらに、彼らの間では「Go American」という表現があるといっていた。「大勢で食事をしているときに、誰か一人がテーブルの人全員に飲み物をおごること」だそう。アメリカ人は時々そういうことをする。どうせだったら全部おごってくれればいいのに、なぜか飲み物だけおごってくれるのである。(ただし、その後別のオランダ人にこの話をしたら「Go Americanという表現は聞いたことがない」と言っていたので、それほど普遍的に使われている表現ではないようだ。)

Go Dutch, Go Americanの例に倣って、勘定の払い方のお国柄で言えば日本式も結構特殊なので、Go Japaneseという表現も使えるかもしれない。10円単位まで正確に割ったり、男女で2:1にしたり、年功序列で5:4:3:2:1と細かく割ったり。この几帳面さを説明すると、大抵感動される。しかし、ある人には「ドイツ人と一緒だ」と言われたが本当だろうか。

さらに、中国式でGo Chineseというのも使えるかも。「私が払う」と面子をかけて戦い、請求書がヨレヨレになるまでみんなで奪い合うこと。でも、基本的には年長者がおごるのが暗黙のルールらしいので、戦いの果てに、若者が手加減して年長者に払わせることになるらしい。ダンナ側の親戚が集まると、このバトルが繰り広げられる。年齢の上下関係があまりないと、戦いの激しさは増すらしく、私の義理の母は、相手に払わせないために、請求書をびりびりと破り捨てたことまであるらしい。激しいなぁ。

Posted by chika at 07:43 PM
eBayと放送禁止用語

eBayが、N-word(ニグロに類する言葉)追放に向けて一歩前進。オークションに出すものの説明でN-wordをインプットするとポップアップスクリーンで警告される。
こちらは、超ローカル新聞のSan Mateo County Newsの記事

When a seller uses the n-word in an item description, a new box will automatically pop up on the computer screen. It will tell the seller that the listing contains a word which may be "highly offensive to many in the eBay community"

ということ。でも「禁止」ではない。歴史的に意味のある書物などで、タイトルにN-wordが入っているものもあるからとのこと。要は、N-wordが正しいcontextで使われてればOKなのである。

***

日本の出版物向けに「黒人」と書いたら、「アフリカンアメリカン」としてください。といわれて、そんな長い呼び名を何回も使ったら全体の文字数がオーバーしてしまうので、ある章を丸ごと削除したことがあった。黒人差別問題の本拠地、アメリカでも新聞なんかではblackという表現をよく使っているのに。正直なところ「羹に懲りて膾を吹く」って感じだよなぁ、と思った。

「黒人」以外にも、日本には様々な「放送禁止用語」がある。身体障害・精神障害関係は相当まずいようだ。「サイコパス」も使ってはいけない言葉らしい。今にHitchcockのPsychoは上映禁止になるかもしれないから、早めに見ておいたほうがいいかも。

**

禁止用語に関しては、昔作家の筒井康孝がたいそう憤慨して書いたエッセーを読んだことがある。当時、「・・・に不自由な人」という言いかえがはやっていたらしく、ちょっと正確な表現は忘れてしまったが、例で言うと「めくら」を「視力に不自由な人」という感じに書き直しさせられたらしい。で、「今に『サラリーマン』は差別用語だから『小額の金銭に不自由する人』と呼ばなければならなくなるだろう。しかし、正確に表現すればするほどつらさが増すではないか」という類のことを書いていた。

昔同じ会社の人でちょっと大きめの人がいた。真夏に大勢で1台のタクシーになることがあって、「自分が隣に座ったら暑いだろうから助手席に乗る」と宣言。

その前に一度、確かNHKの番組で「太っている人の周りは涼しい」ということを証明するのを見たことがあった。小さな密室を2つ用意して、それぞれに太った人数名、痩せた人数名を閉じ込めしばらくそのままにする。太った人たちは、みな汗だくで苦しそうで見るからに暑苦しい。痩せた人たちは、淡々と世間話などしてて涼しげ。しかし、室温を測ってみると、太った人たちの個室の方が涼しいのである。痩せている人は、エネルギーを体外にどんどん発散させるから痩せており、太った人はエネルギーを溜め込むから太っているのだから、という説明。エネルギーはもちろん熱となって放散されているのである。

それをタクシーの中で説明したら
「そうか、じゃあ僕は『実はそうではないが、見た目だけが暑苦しい人』なのか。でも、そういう風に正確にいうとなんだか余計逃げ場がないな」と苦笑していた。

放送禁止用語置換ルールに従えば、「涼しげな見た目に不自由する人」となるのだろうか。

***

ちなみに、N-wordに相当する日本人の呼称はいわずと知れたJAPだが、これが日本人の蔑称と知らない若い人も結構いる。むしろ「Jewish American Princess」の略の方がよく知られているかも。「鼻持ちならないわがままなユダヤ系アメリカ人の若い女性」という意味。もちろん、本人に向かっていったら張り倒されます。

Posted by chika at 07:02 PM
March 13, 2003
景気

今日、大手半導体企業と、大手コングロマリットの半導体部門の知人と話していたら、どちらも「最近注文が増えて対応が大変」と言っていた。いずれもアメリカが本社の会社。2人とも「戦争さえ起こらなければ、結構このまま回復するかも」とのこと。

さて、どうなりますか。

Posted by chika at 10:55 PM
Hiring companies

The company is hiringといったら、その会社の景気がいいこと。ちなみに、スタンフォードのビジネススクールの卒業生メーリングリストで、週に一回求人情報がやってくる。それによれば、現在ビジネススクールの卒業生向けJobデータベースに入っている情報はこんな感じ。
* Total # of New Job Postings this week: 48
* Total # of Active Jobs Posted: 367
* Total # of Jobs Posted this year: 1075

結構活発に採用活動が行われていることがわかる。なお、このメーリングリストで、9・11の2週間後に「エキサイティングで知的な海外スパイ活動」てなキャッチフレーズでCIAの募集があって笑えた。(CIAのすばやさに感動もした)

ちなみに、ご参考まで今週のNew Postingは下記のようなところ。こういうのを時々ざっと眺めて、
「ふむふむ、やはりeBay, Microsoftあたりは盛んに雇用しているな。」とか
「Dealixといえば、私のオフィスの裏にあるちいさな会社だが、何か動きがあるようだな」とか、なんとなく景気動向を伺う。詳しい情報は卒業生だけがアクセスできるサイトでパスワードを入れるとでてくるようになっている。

ビジネススクールはこうして卒業後もいろいろ(一応)面倒を見てくれる。莫大な学費を取るのだから当たり前といえば当たり前だが、学校がビジネスライクにきちんと運営されているのは、見ていて結構心がすっきりする。

***
Company: Teach for America
Title: Director of Development
Location: New York City NY
Industry: Children & Youth
Function: Business Development

Company: Syufy Enterprises
Title: President, Real Estate Group
Location: CA
Industry: Construction/Real Estate Development
Function: Other Function

Company: Teach for America
Title: Director of Major Gifts
Location: New York City NY
Industry: Children & Youth
Function: Fundraising/Development

Company: Battelle Memorial Institute
Title: Program Manager
Location: Columbus OH
Industry: Government
Function: Not Specified

Company: Group Hug Productions
Title: Business Planning Consultant
Location: Bay Area
Industry: Media - Radio/TV/Cable/Film
Function: Consultant - Other

Company: Panscopic
Title: Vice President of Marketing
Location: San Francisco CA
Industry: Software
Function: Brand/Product/Marketing Manager

Company: The Foundry -SigEx Ventures
Title: Assistant Director
Location:
Industry: Public Relations
Function: Corporate Officer

Company: The Foundry -SigEx Ventures
Title: Strategic Communications Practitioners
Location:
Industry: Public Relations
Function: Investment - Private Client Services

Company: The Foundry -SigEx Ventures
Title: Financial Analyst
Location:
Industry: Public Relations
Function: Sales

Company: The Foundry -SigEx Ventures
Title: Investment Bankers
Location:
Industry: Public Relations
Function: Consultant - Other

Company: Gap Inc.
Title: Senior Director, Supply Chain Strategy
Location: San Francisco CA
Industry: Retail/Wholesale
Function: Strategic Planner

Company: BUILD
Title: Director of Finance & Development
Location: Menlo Park CA
Industry: Social Enterprise
Function: Fundraising/Development

Company: PayPal
Title: Project Manager, Localization
Location: Mountain View CA
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Project Manager

Company: PayPal
Title: Product Manager, Localization
Location: Mountain View CA
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Operations/Production Manager

Company: Alpine Investors
Title: VP Sales/Business Development
Location: Van Nuys CA
Industry: Manufacturing - Other/Diversified
Function: Sales

Company: Mercury Partners Inc.
Title: Hedge Fund Research Analyst
Location: NY NY
Industry: Hedge Funds
Function: Investment Research/Portfolio Manager

Company: Barclays Global Investors
Title: DATA/RESEARCH ANALYST -INVESTMENT INDUSTRY
Location: San Francisco CA
Industry: Investment Management
Function: Investment Research/Portfolio Manager

Company: M. E. Zukerman & Co.
Title: Private Equity Associate
Location: New York NY
Industry: Private Equity/LBO
Function: Private Equity/LBO

Company: Dealix
Title: Chief Financial Officer
Location: Palo Alto CA
Industry: Accounting
Function: Finance - Other

Company: PayPal
Title: Senior Process Manager
Location:
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Project Manager

Company: Dealix
Title: Director of Sales
Location: Palo Alto CA
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Sales

Company: Kohan Consulting
Title: Principal on Partner Track
Location: New York City NY
Industry: Consulting
Function: Management Consultant

Company: Robert Half International Inc.
Title: Senior Compensation Analyst
Location: Pleasanton CA
Industry: Human Resources/Recruiting
Function: Other Function

Company: Callan Associates, Ltd.
Title: CONTROLLER
Location:
Industry: Industrial Equipment
Function: Accountant/Controller

Company: Teach for America
Title: Development Director
Location: New York NY
Industry: Non-Profit: Other
Function: Fundraising/Development

Company: McKinsey & Company
Title: Corporate Finance & Strategy Practice Associate
Location: New York New York
Industry: Consulting
Function: Management Consultant

Company: Microsoft Corporation
Title: Business Development Manager
Location: Redmond WA
Industry: Hardware/Software/Systems Services
Function: Business Development

Company: Microsoft Corporation
Title: Product Manager-Competitive Marketing
Location: Redmond WA
Industry: Hardware/Software/Systems Services
Function: Brand/Product/Marketing Manager

Company: Microsoft Corporation
Title: Change Project Manager, Business Development
Location: Redmond WA
Industry: Hardware/Software/Systems Services
Function: Management Consultant

Company: Microsoft Corporation
Title: Business Development Manager
Location: Redmond WA
Industry: Hardware/Software/Systems Services
Function: Strategic Planner

Company: Rodale Inc.
Title: Director, Business Development
Location: New York New York
Industry: Marketing Services
Function: Business Development

Company: Microsoft Corporation
Title: General Manager, MSN Alliances
Location: Redmond Washington
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: General Manager

Company: Microsoft Corporation
Title: Product Manager
Location: Redmond Washington
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Brand/Product/Marketing Manager

Company: Ancora
Title: Director of Special Projects
Location: San Fernando CA
Industry: Services - Other/Diversified
Function: Business Development

Company: Ebay Inc.
Title: Sr.Category Manager Home & Living
Location: San Jose California
Industry: Not Specified
Function: Not Specified

Company: PayPal
Title: UK Marketing Manager
Location: London, UK
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Brand/Product/Marketing Manager

Company: The 5th Avenue Theatre
Title: Director of Finance
Location: Seattle WA
Industry: Arts & Media
Function: Accountant/Controller

Company: CitySkills, Inc.
Title: Director of Operations
Location: Boston Massachusetts
Industry: Economic Development
Function: General Manager

Company: Ebay Inc.
Title: Senior Category Manager, Home & Living
Location: San Jose CA
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Brand/Product/Marketing Manager

Company: Bumble and bumble
Title: Product Development Manager
Location: New York NY
Industry: Not Specified
Function: Research & Development Manager

Company: LowerMyBills, Inc.
Title: Strategy Analyst
Location: Santa Monica California
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Strategic Planner

Company: FJN
Title: Treasurer - FJN #3668
Location: Chicago IL
Industry: Education
Function: Treasury/Analyst

Company: Overture Services, Inc.
Title: Director of Corporate Development
Location: Pasadena CA
Industry: Internet Services/E-Commerce
Function: Business Development

Company: Chase Winters
Title: Director, Corporate Strategy
Location:
Industry: Retail/Wholesale
Function: Strategic Planner

Company: Chase Winter
Title: Director, Quality Leadership Strategy
Location:
Industry: Retail/Wholesale
Function: Other Function

Company: Vulcan Ventures
Title: Director Public & Non Profit Investments
Location: Seattle WA
Industry: Venture Capital
Function: Venture Capitalist

Company: Ashoka Innovators for the Public
Title: Director/Entrepreneur - Ashoka Canada
Location: Toronto/Vancouver/Montreal Ontario/BC/Quebec
Industry: Social Enterprise
Function: General Manager

Company: The Travillian Group
Title: Managing Director (executive search)
Location: New York NY
Industry: Human Resources/Recruiting
Function: Consultant - Other

Posted by chika at 10:52 PM
March 12, 2003
Accountability

車の中でラジオを聞いていたら、2月20日に起こったRhode Islandのクラブの火事で誰が責任を取るのか、というニュースをやっていた。この火事は180名以上が怪我、うち20名が今なおcritical condition(正確な日本語訳は何だろう?重篤、だろうか?)、99名が死亡という、激しいものだった。

ニュースのオーディオファイルはラジオ局のウェブで聞ける。抄訳を抜粋すると、「Lawsuits are being filed following last month's devastating Rhode Island nightclub fire. There are also calls for the government to pitch in. Some fear families' needs will outstrip the money available to help them. The death toll is at 99, with more than 180 people injured」

この中で「誰がaccountableか」という表現が使われていた。

Accountabilityは日本語では「説明責任」と訳されることが多いが、これは随分変な日本語だ。ただの責任とどう違うのかよくわからない。

実は、アメリカ人にresponsibilityとaccountabilityの違いは?と聞いても、たいていの人は「同じだよ」とまずは言う。さらに突き詰めて聞くと、「うーん、ある仕事についてresponsibilityがある人は、その仕事が失敗したも首にならないけど、accountabilityがある人は、首になるっていうニュアンスはあるかな」と。

今回のニュースでの使われ方で言うと、みもふたもない言い方をすれば「who's accountable」は「誰が賠償金を払うのか」ということ。

responsibleに比べてaccountableは、より具体的な後始末の責任がある、ということだ。

***

最近ちょっと思っているのだが、accountableは「落とし前をつける」と訳すと理解しやすいんじゃないだろうか。単に「責任を持って遂行」だと、駄目だったらあやまれば済むかなぁ、という感じ。しかし、「上手くいかないときは落とし前をつける」といわれたら、物質的・具体的なケリをつける、というニュアンスが強くなる。どんな手段をとってでも成功させる、駄目だったら指を詰めるか、それに匹敵する何か物質的な手段を講じる、というような。

今回の火事の件もそう。金銭的「落とし前」をつけるのは誰なのか、という論議が盛んにされているわけだ。(というのも、クラブのオーナーは弱小で、とても賠償金を払えそうにないので。関連しそうなありとあらゆる対象が訴訟対象として精査されている。)

***

responsibleな人は一生懸命がんばれば成果が出なくても許されるかもしれないが、accountableな人はがんばったくらい・謝ったぐらいでは許されない。「ゴメンで済むなら警察はいらない」のである。

Posted by chika at 11:10 PM
March 11, 2003
中国toインドvia Silicon Valley

Silicon ValleyのUTStarcomが、インドの会社から、携帯電話インフラ関連機器で$100M超の注文を受けたという記事がBiz Inkに。

UTStarcomは企業価値18億ドルの通信機器会社でCEOは中国系のHong Lu。ということで、中国toインドviaSilicon Valleyという最近流行の「黄金のトライアングル」(と呼んでいるのは私だけかもしれないが)。

シリコンバレーでは、犬も歩けば中国人とインド人に当たる。しかも移民の方がローカルの人より平均的に高学歴。インド人移民なんて、半分以上がマスターかPhDだ。

****

あんまり関係ないのだが、中国というのはたいした国だと思う。やることが極端なのに加え、国がでかくて、人が多い。数が多いというのは結構重要だ。

昔ドイツ人の知り合いがこんなことを言っていた。
「大学時代中国とバレーボールの試合をした。自分たちドイツ側は『中国人の選手は、きっと背が小さくてすばしっこいんだろう』という先入観を持っていた。で、試合会場に着いたら、見上げるような巨大な選手ばかりでたまげてしまった」
ドイツ側は平均身長195センチ超だったそうだから、中国側は2メーターを勇に超えていたようだ。最近NBAにmainland Chinaからやってきたヤオ選手も、2メーター30だか40だかある。母数がたくさんいる国ならでは。

もとい。

中国はその昔、といってもそれほど大昔じゃない昔、世界でも有数の文明を誇っていた。何がすごいって、紙を発明したのは凄い。第一次情報革命の源だ。インターネットに匹敵する大発明である。

しかも、航海技術も優れたものがあり、マルコポーロだのコロンブスだのが世界を旅する何世紀も前に巨大な艦隊で世界を見てまわり
「どこに行っても野蛮人ばかり。見るべきものはない」
と結論付けて、国にこもってしまったという仮説もある。(この巨大艦隊話は、最近いくつかの本が出て話題になっている。)

うちのダンナは中国系。当たり前だが親戚も中国系。加えて、友人・知人・仕事仲間にも中国系がやたらと多い。そういう彼らとのやり取りを通じて、「これからは中国の時代」という言葉が、去年のあるときからハタと現実味を持って感じられるようになった。

「中国の時代」というのはもはや使い古された感も強いキャッチコピーだが、そういうキャッチコピー的な上っ面の言葉として理解するのではなくて、上手くいえないのだが「腑に落ちた」というか、「確かにそうなりそうだ」という現実味を帯びてきた、という感じ。gut feelingとでも言いましょうか。

「腑に落ちた」理由の一つには、彼らの民族としての誇りがある。「体が強いのは白人、頭がいいのは東洋人」という人種差別的優位性を心中信じている人も結構いる。(イトコの一人は「タイガーウッズが優秀なのは、黒人の体力と東洋人の知力を兼ね備えているからだ」と豪語。politically incorrectな発言だが)それにentrepreneurial。商売上手というか、タフというか。

そうして、実際に中国系の人と接して思う「感じ」と、中国のGDPとか人口構成の変化とか産業変移などのいろいろな情報を足して、「腑に落ちた」感じがストンとある日やってきた。

さて、本当にそうなるかどうかは、見てのお楽しみ、である。

Posted by chika at 09:35 PM
March 10, 2003
社会の上から下までリスクは一緒

San Jose Mercury Newsの日曜版にDesperate job seekers flood companies with electronic résumésという記事があった。

「Intel receives between 15,000 and 20,000 résumés each month. Stanford University has a database of 250,000 received in the past 2 1/2 years. Google receives 1,000 a day.」なんだそうだ。Googleは一日1000通ということは、1分半に一通届くのか。(ちなみに今年Googleは800人採用予定だそうだ。最近まれに見る景気のいい話だ。なお、私の周りの、技術者でない人の転職先では、最近はYahoo, Google, eBayがトップ3。)

「...particularly frustrating issue for many experienced job seekers: companies' reluctance to hire people they deem overqualified. Employers say they don't dismiss candidates simply because they held a lofty title during the dot-com boom -- but they are concerned about hiring people whose actual job responsibilities would be substantially less than before.

``We know the reality is as soon as an appropriate-level job shows up, they're going to take it,'' Ledwin said.」

こうした求職難の中では、経歴が良すぎても雇用してもらえない。上の記述の後に、Waiter.comというレストランの出前代行会社では「配達ドライバーを雇用するときも、経歴が良すぎる人は採用しない。すぐやめるから」という記載もあった。ドライバーにすらなれないのか・・・・そういえば1年位前に、「大学卒という学歴を隠して、本屋のレジで採用してもらった、もと管理職」という人の記事も読んだことがある。

経歴がぴったりじゃないと雇用されないということは、元管理職だろうが、元プール掃除だろうが、職探しの難しさはあんまり変わらないということだ。

社会の上から下までリスクは一緒。違うのは期待収入だけ、ということか。

***

『日本で「high growth venture」がなかなか生まれない理由』を「ベンチャーと中小企業の違い」のエントリーへのコメントでJohnさんに質問いただいている。これは、世の中でいろいろといわれている通り、複雑な社会システム(教育・金融・行政などなど)に起因すると思うのだが、もっと突き詰めると、「日本人はhigh growth ventureがたくさん生まれるような環境が好きじゃないから」という好みの問題なんじゃないだろうか、と思う。

「社会システム」っていったって、それを作ったのは自分たち。第二次世界大戦直後はアメリカの意向があったかもしれないが、それ以降は自分たちの意志。日本人が、日本人の好みと志向で今のシステムを作り上げたのである。(好きじゃなかったら、これほど緻密に良くできていて、壊すこともママならない仕組みができるわけがない、と思う。)

「high growth ventureが生まれるような社会」は突き詰めていくと、アップダウンが激しくて、リスクの高い社会である。「学歴や地位を極めても安定が手に入らない社会でいいから、その代わり新しいものが急速にたくさん生まれる環境を作り出したい」という好みを持つ日本人はあんまりいないんじゃないでしょうか。

Posted by chika at 11:11 PM
March 09, 2003
ベンチャーと中小企業の違い

日本人の知人から「シリコンバレーの高成長の中小企業で働いてみたい」というメールをもらって、「何かおかしい!」と私の「変なこと感知髪の毛アンテナ」が3本ほど逆立った(「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪アンテナ風)。

なんだなんだ。文法は間違ってないぞ、言ってることも間違ってないぞ、この違和感はなんだ、と思って気が付いたのは「中小企業」という言葉。「シリコンバレーの高成長の小さい会社」はhigh growth venture。日本で言うところの「中小企業」とは随分違うのだ。

***

「優れたシリコンバレーのベンチャーと上手く付き合うことが重要」と大企業の方に言うと、「それならこういう設計を発注したい」という類のことを言われることがある。つまり「下請け」。「とりあえず数百万円くらいで、簡単な共同コンセプト作りをしたい」ということもある。

いずれも「相手の会社の作業を時給で買う」という発想に近い。相手が「中小企業」だったら問題ないかもしれないけれど、high growth ventureは時給仕事はしない。

***

「high growth venture」と「中小企業」の違いは何なのか。

「high growth venture」は、核となるコンセプトや技術があって、それを市場にもたらすことを目的とした若い会社。5年間程度で50億円規模の売上げを達成するような、急激な成長カーブを想定する。最短距離で自社の技術を世に出せるよう、それ以外の仕事を受注して時間を無駄遣いしたりしない。だから最初は赤字。赤字の間の資金は、「我々の技術が完成して、市場に出た暁にはこれくらい儲かる。」という「風が吹けば桶屋が儲かる論(またの名をビジネスプラン)」を、出資者たるベンチャーキャピタルに説いて回って、資金調達する。

「high growth venture」は基本的には人材もトップ級が揃う。その業界の上位を占める大企業以上の水準を持つ人材がぞろぞろいるのも普通。バイオ系のベンチャーなんて、社員の半分以上がトップスクールのPh.D.なんてこともざら。

「中小企業」は、核となるコンセプトや技術はあることはあるが、「それで世の中を制覇しよう」という野望は薄い。仕事を受注しながら、利益がでたらだんだん業容を拡大して成長していく。

「中小企業は駄目で、high growth ventureがいい」というのではない。この二つは違うタイプなのだ、というだけだ。しかし「中小企業」に対するような要求を「high growth venture」にしても受け入れられない。

なお、シリコンバレーに住所がある技術系の会社だからといって、どれもがhigh growth ventureなわけではない。経営の箸の上げ下ろしまでこまごまと口を出してくる外部資本(ベンチャーキャピタル)などいれずに、自分の好きなペースで仕事をしたい、という「中小企業」型会社だってある。そういうのは、「small business」。またの名を「life stype venture」という。「世界制覇」の野望より、「小さくても一国一城の主となって働きたい」という「ライフスタイル欲求」を実現するための会社、という意味。

もちろん、「ベンチャー認定」なんていうものがあるわけでもないので、「high growth venture」と「small business」の中間的な会社だってあるし、small businessでじわじわと成長してきた会社が、突如気が変わってVCから資金調達、high growth ventureに鞍替えすることもある。

でも、やっぱりhigh growth ventureは「中小企業」ではないのだ。

Posted by chika at 05:40 PM
March 08, 2003
Googleの裏ワザ

Googleは辞書代わりに使える。

専門用語について「現在リアルタイムで、その業界の専門家がどんな日本語を使っているか」を知りたい時、とても便利。

使い方は簡単。サーチボックスに英単語をそのまま入れて、「日本語のページを検索」を選択する。例えば、「expression analysis」と入れると、一番最初の検索結果はReal-time gene expression analysisとなっていて、その下に日本語で、「リアルタイム遺伝子発現解析において・・・」となっている。とすると、expression analysisは発現解析と訳すのか、とわかる。掲載サイトの信頼性をチェックして、心配だったら2-3他のサイトもざっとチェックすれば、大体わかる。

IT関係だと、日本語に訳さずにカタカナのまま使うべきものがたくさんある。(デプロイメント、とかコンフィギュラブルとか)そういうのも「いつカタカナにするか、いつ日本語にするのか」がわかる。例えば、robust。これは結構微妙かな。Googleではトップのほうに「頑強な」と訳しているページがいくつかああって、その後「ロバストな」とカタカナ使いなものがある。

ちなみに、普段Googleを英語のインターフェースで使っている方は、サーチボックスの右にあるpreferencesで、Interface Languageを日本語にするか、Search LanguageをJapaneseだけにすればOK。

この「Google辞書」、専門用語辞書よりリアルタイム性があるから好きで愛用しています。

Posted by chika at 10:41 PM
March 05, 2003
サーチエンジンの裏ワザ

昨日の「競合調査のコツ」の続き。

競合調査の下調べの一環としてのインターネット・サーチに関して、私のこれまでの経験で「これは便利」と思ったいくつかのtipsをご紹介します。(特に未公開企業について調べる場合)

1.Googleサーチ
もし既に1社「これは」と思われる会社があってその競合を探す場合。

まず対象会社名をGoogleする。と、その会社がサーチ結果として出てくる。そこで、その下にある「関連ページ」というリンクをクリックする。(もし対象会社のURLが既にわかっている場合は、サーチフィールドにrelated:www.XXX.comのようにURLにrelated:をつけて入れても同じ結果となる)すると、アーラ不思議、競合企業がばらばらと出てくる。

例えば、「Google」の関連ページは、Yahoo! Altavista Lycosと順に出てくる。
「Asahi.com」の関連ページは、読売新聞、毎日新聞、日経新聞てな具合である。

といってもあんまりestablishした業界じゃないと、これほどきれいには並ばないが、根気よく一つ一つ関連ページを見ていくと、少なくとも周辺情報がいろいろとわかることが多い。

2.CNet記事サーチ
ハイテク関係ニュースが豊富。競合企業名が2社以上わかっていれば、両方でサーチすると比較記事が引き出せることもある。ニュースだったら最近話題のGoogleのNewsもあるけど、CNetはハイテク集中なのに加え、次の小ワザができる。

まず一回目は普通にサーチワードを入れて検索。その結果のページでもう一回サーチをかける。ここでサーチボックスの下に注目。プルダウンメニューがあるのだが、そこからBusiness Newsを選ぶのである。(なぜか一回目にはこの選択肢がない)

すると、アーラ不思議、ビジネス関係の12のサイトだけからサーチしてきてくれる。対象サイトは次の通り。Business2.0, Business Week, Fast Company, Forbes, Fortune, HBS Working Knowledge, Investor News, Knowledge@Warton, McKinsey Quarterly, TechWeb, Wired, ZDNet

Red HerringTechnology Reviewはここに入っていないので、別途サーチしてみましょう。この二つはもちろんGoogleからでも出てくることがあるけど、念のため、それぞれのサイトで検索。(とはいってもRed Herringは廃刊になったので、いつまでサイトが持つのかわかりませんが)

3.メタサーチ

CNetの「Business News」のような「検索対象限定のサーチ(メタサーチ)」専門の検索エンジンもいくつかあるが、Metorはお勧め。Business以外でも、Tech InfoとかScienceとかいろいろな設定で、その専門サイトのみからサーチしてきてくれる。

4.噂話チェック

大体競合企業名が出揃ってきたら、「悪い噂」がないか確認。以前このblogでも書いたFuckedcompanyは最低ラインとして一応チェック。

さらに、GoogleやCNETで会社名の後に1スペースあけて、縁起の悪い言葉を書いてみたり。downturn, layoffなど。

5.公開企業情報

これはサーチエンジンじゃないが、公開企業調査の基礎。

競合として公開企業が出てきたら、それからどっと情報が手に入る。まずはYahoo FinanceでSymble Lookupをしてから、当該企業のページへ。そこでプロファイル、財務状況、市場価値などを確認。一応Insiderというリンクもチェック。マネジメントなど鍵となる人物の自社株売買履歴が見られる。

さらにYahoo Financeの企業情報の中にあるSEC Filingをクリック、そこからEDGAR Onlineに行く(リンクが出てくるので)。でForm 10Kをしっかりと読む。

***

とりあえず、今日思い出せるのはこんなところです。何かいいtipsがあったら教えてください。

Posted by chika at 10:01 PM
競合調査のコツ

リアルタイムである業界を徹底的に知りたい時、一番いいのは、そのプレーヤーである企業に直接話を聞くこと。第三者の噂話はただのinformation、直接入手した情報(かつその裏を取ったもの)がIntelligence、という話は以前「裏をかけ!」というエントリーで書いたとおり。

そまず第一歩は「競合調査」である。これが結構難しい。というのも、どこの会社に行っても、
「御社の競合はどこですか」と聞いたら
「直接競合はいない」
といわれるのが基本ルールなので。(バイオ・ヘルスケア関係はまだスレてないので、正直に競合を教えてくれることもあるが、ITではまずそういうお人好しはいない。)

これを避けるためには、「競合は誰か」「競合優位性は何か」といったことを予め下調べしておいて、びしびしと具体的な質問をしないとならない。直接の競合だけでなく、補完技術や代替技術を持った会社ももちろん調べておく必要がある。

で、「XX社との競合は?」とか「YY社が持つZZ機能はなぜ御社の製品にないのか?」などと具体的に聞くと、セキを切ったように怒涛の競合比較説明をしてくれることが多い。といっても、もちろんみんな自社に優位なことしか言わないから、なるべく多くの会社から話を聞いて総合評価する。

下調べの方法は明日のblogで。

Posted by chika at 09:54 PM
March 04, 2003
学歴は役に立つのか?

私の入っているオフィスビルのオーナーがため息混じりにこんな話をしていた。

「長男はスタンフォードのマスター3つとPh.D.を持っていて、もともと巨大クレジットカード会社のVPだったんだけど、会社を辞めて起業しようとしたらできなかった。その後、2年近く職を探したけど見つからず、結局クリーニング屋を3軒買って、それを仕事にしている。

ビジネスは軟調で、コスト削減で社員をぎりぎりまで切ったので、一人でも病気になったりすると、長男がかわりに働かないとならないから土・日もなく働いている。そこまでしても、今月は給料が払えないくらいだった・・・」

***

こちらで働いていて思うのは、ほとんどの人が学歴を公表していること。日本みたいにひそひそ「あの人実は何とか大学」とか「学歴社会はいけない」とか、そういう後ろめたい感じはあまりない。

例えば、昨日のVentureWireNewsletterの「先週の金曜に増資を受けたスタートアップ」の中で、サンフランシスコの企業、PanscopicのManagement Teamのページを見るとこんな感じ:
President and CEO:B.S. in Engineering from Stanford University, and an MBA from Harvard Business School.
Founder, Vice President of Products:MS from Penn State, and an MBA from the University of Michigan.
Vice President of Sales:B.S. in Business Administration from Bradley University.
Chief Architect:B.A. with High Honors and Overall Academic Distinction in Computer Science from the University of California, Berkeley.


***

学歴をみんなが経歴に載せるのは、アメリカ(特にシリコンバレー)が実は学歴社会ということもあるけれど、「学歴だけでは、どうにもならない」というのも、大きな理由じゃないだろうか。他のいろいろな経歴と同等のひとつのコンポーネントに過ぎないから、かえって堂々とセールスポイントとして明記できるのでは、と。

高学歴でありながら苦労しているのはビルオーナーの長男氏だけではない。スタンフォードのMBAホルダーだって、多分シリコンバレーだけで、数百人は職探し中だと思う。

この間はこんな人が新聞で取り上げられていた。
「通信系大学院卒、これまで大企業からスタートアップまで、様々な通信系企業でdirectorやVPといった要職を歴任。でも40代半ばでレイオフされて以降、1年以上職探しをしているが見つからない(なんと3000通以上の履歴書を送ったそうだ)。通信業界からきっぱり離れることを決意、家を売って引っ越すことにした」

***

アメリカは学費が高い。普通の大学に4年行ったら学費だけで1000万円を覚悟した方がいい。MBAは2年間とはいえ、例えばスタンフォードの場合、2年間給料をもらえない機会損失と学費を足したら平均26万ドル、3000万円超だ。これだけ投資して職が見つからないのでは、話にならない。ビジネススクール側も、卒業生が職がなくては学校の将来が危ないので、Alumni向けのcareer service centerも設けて、職の斡旋やらworkshopやらいろいろとやっている。

***

というわけで学歴があっても苦しいことが多い当地だが、とはいえ、学歴なしで渡っていくのはもっともっと大変。(もちろん天才は別ですが)

ということで、一旦取った学歴は「人生サバイバルの武器として、最大限に活用する」って感じなのでした。

Posted by chika at 10:29 PM
March 03, 2003
MIT Technology Insider

MITが最近、MIT Technology Insiderというニュースレターの発行を始めた。MITでの研究、大学からのスピンオフなどの「MIT Insider情報」だけの9ページほどのもの。

技術や企業の評価にはこんなマークが使われている。


■$マーク:調達資金(一つは200万ドル以下、二つが1000万ドル以下、3つがそれ以上)
■紙マーク:パテント(一つはコアパテントなし、二つはコアパテントあり、三つは業界で優位なポジション)
■時計マーク:製品化までの時間(一つは1年以下、二つは1-3年、三つはそれ以上)

ちなみに例として上げたのは、MITからのスピンオフCurl Corporationのもの。World Wide Webを全く新たなものに置き換える、という壮大な目標の元に世界のコンピュータサイエンスの中核人材が集まって1998年に設立したが、VCから集めた500万ドルをほとんど使い切ったところで、ほとんどビジネスとならないので、ビジネスプランを変更し、今は大規模企業向けに鞍替え中、勝負はこれからだ、という話。

これ以外でも学内の新設ラボも同じマークを使って、「調達資金」「パテントポジション」「製品化までの時間」が説明され、その活動内容の詳細な説明がある。

さらには、MITが持つパテントでライセンス可能なもののリスト、など。

何が凄いって、「自分たちの技術が、世の中でどういう評価を受けるか」「事業性の観点から見てどういう位置づけか」ということをわかってるのが見どころ。もちろん、間違っている可能性だって十分にあるが、少なくとも「世の中から見たらうちの大学の研究やスピンオフはどういうレベルか」ということを分析し、それをきちんと発表するのは、大学にとってはなかなかたやすいことではないだろう。

今subscribeすると、過去5年間にMITからテクノロジーライセンスを受けたスタートアップ100社リストも付いてくる。(100社もある・・・とはいえ、まだつぶれてないスタートアップだけだろうから、元は100社よりもっと多かったんだろう。)月刊で、1年95ドル。

お試し、ということで一号だけ無料でダウンロードもできます。

***

なお、Technology Insiderの発行元は、同じくMITの刊行するTechnology Reviewという雑誌。Technology Reviewは普通の本屋でも売っている月刊誌で、イノベーティブな技術が好きな人にとっては面白い読み物として仕上がっている。MITの卒業生であるうちのダンナのところに、毎月送ってくるのだが、驚いたことに、商業雑誌のクオリティをもったこの雑誌が卒業生会報も兼ねている。最後に各年次の卒業生の動向など、卒業生専用のコンテンツも入ってます。(普通の本屋で市販されているものには入っていないんだろう、多分)

ちなみに、2年ほど前まで、Technology ReviewのサイトのURLはIPアドレスで数字が列挙してあるだけという超オタクぶりであった。(まぁ、MITといえば、Cal Tech(カリフォルニア工科大学)と並んでオタクの殿堂なのでヤムナシ。)GoogleでTechnology Reviewとサーチしても出てこなかったくらい。(IPアドレスがわからないやつは見るな、ということだな、と理解していた。)それが今では豊富な有料コンテンツを提供するほどになっている。個別記事も買えるし、subscribeすれば全部を見ることもできる。

Nano Materialsとか、Defence Technologyとか、トピックごとに記事がまとまってるところもあって、なかなか使えます。

***

秘密が多い日本の大学(や企業や個人)に比べて、MITに限らずアメリカの大学(や企業や個人)はハイテク情報はどんどんオープンにする。もちろん秘密は秘密。守るべき秘密の守り方の激しさは、外国人による産業・学術スパイ問題などでみなさんご存知の通り。だけど、あんまり語られないのは「アメリカでは、秘密にする必要がないこと・パテントで守れるものはどんどん開示する」ということ。それがハイテク産業が栄える秘密。

Posted by chika at 09:08 PM
March 02, 2003
変なものに出会う体質(?)

私の記憶庫にはたくさんの「日常生活の中の少しだけ変な出来事」が格納されている。長いこと「変な出来事は誰の日常でも起こっている」と信じていたのだが、実は私が「変なことに出会いやすい体質なのでは」と、とある人に指摘された。

私が出会った少しだけ変なことには例えばこんなのが:

その1:浪人(とスーパーマン)に出会う

小学生の頃、新宿駅を母と妹と歩いていたら、侍姿(旅の浪人風。脇差を付け、三度笠をかぶっていた)に道を訪ねられる。
「三越はどこでござるか」とか、言葉遣いも時代劇風だった。
母が何事もなかったかのように
「あ、三越だったら、3つ目の角を右に曲がってすぐですよ」てな感じで返事をしたら、
「かたじけない」
とか言って、姿を消していった。

私はもう仰天して、
「お母さん、あの人なになになに」と聞くと母は、
「しっ、静かに。この街には変な人がいっぱいいるんだから、無視するの!」と。

すると、その直後、金髪のアフロヘアのカツラをかぶり、全身スーパーマンの装束に身を包んだ中年のしょぼくれた男性が、自転車の上でスーパーマンが飛ぶ格好をしながら通り過ぎていった。
「あの人は、この辺の新聞配達の人」と母に言われ、(確かに自転車のカゴには新聞が満載だった)そうか、変な人はいっぱいいるんだ、と母親の英知に感動したのであった。

その後10年ほどたって、何かの週刊誌を読んでいたら、テレビ番組のプロデューサーが「昔、侍の格好をした人に道を歩かせて、周囲の人の驚くさまを撮影しようと思ったところ、誰も驚かない。仕方ないので、侍役の人に道を聞かせたりしたが、みな普通に反応するだけだったので、結局企画はボツになった」と書いているのを発見。長年の疑問が氷解した一瞬であった。

***

その2:世の中の噂どおりの東大受験生に出会う

東大入試の時のこと。試験の始まる前、斜め前の人が手を挙げて
「鉢巻をしめてもよろしいでしょうかっ!」
と聞いた。了承を取ると、おもむろに白地に「必勝」と書いてある鉢巻を丁寧に締めだした。

その後、数学の試験中には、突然別の人が手を挙げて、
「鼻血が出ましたっ!ティッシュを鞄から出してもよろしいでしょうかっっ!!」
と言った。教官に「どうぞ、早く出してください」と言われ、ごそごそとティッシュを取り出して鼻に詰めていた。

いずれも、なんだかもうこれから出陣する兵隊さんのような生真面目な調子だった。特に後者の鼻血に関しては、私は一人で笑いをこらえて悶絶寸前だったのだが、まわりは何事もなかったかのようにカリカリと答案を書いている。それもおかしくて、しばらくの間、胃がよじれるくらい(声を殺して)笑い続けてしまった。(私は、数学では5問か6問あるうち1問しか解けず、後はもう絶対解けないことが明らかだったので、残りの試験時間中(2時間以上も)ほとんど、周囲を観察していたのであった。)

***

その3:家族が巨大UFOを目撃する

これは私自身ではなく、母と祖母(と近所のおばさん)の経験なのだが、実家の上でUFOを目撃。夏の夕方、まだ明るい中で、巨大な円盤が出た。地平線から出たばかりの月ぐらいの位置に、まんまるの巨大な円盤がぽっかり。点々と光源が散らばり、それぞれから白く輝くビームが出ていたそうだ。それがすーっとまっすぐに遠ざかりながら角度を伏せていったら、麦藁帽子みたいなおなじみのUFO形になって、今度はジグザグに動きながら近くの3階建てくらいのマンションのかげに消えていったそうである。

その直後に私が家に着いたのだが、家族は偉い興奮していた。祖母いわく「人生で見た中で最もきれいだった」そうだ。きっとニュースになるだろうと思っていたが、何もなく。いったいなんだったんでしょうか。

***

その4:三菱・住友・ミツイ・伊藤忠 ロイヤルフラッシュ

三菱商事で働いていたときのこと。とあるプロジェクトで、客先の担当者の名前が住友さんと満井(みつい)さんだった。ミツイさんは結構いる名前だが、住友は珍しい。さらに、同じプロジェクトで、外部のコンサルティング会社と契約した。その会社の社長の名前は伊藤忠だった。ネタだろう、となかなか信じてもらえないんだけれど本当に本当の話。

***

こういう小ネタ系の変な話を言い出すと、きりがなくいっぱいあるんだけど、ずっと「誰もが同じようにちょっと変なことに出会う」のだと思ってました。どうなんでしょうか・・・・。

Posted by chika at 04:20 PM
March 01, 2003
Red Herring (&Tiqit;) goes bust

Red Herringが廃刊に。今出ている3月号で終わり。

前回のエントリーで、「Fuckedcompanyでは、Red Herringの購読者リストと名前が$2mで売りに出ていると噂になっている」と書いた矢先のできごと。

それ以外にも、ちょうど2日ほど前に「Red Herringの1月号の表紙になっているベンチャーのTiqitが2月に倒産」という噂を聞いたところ。「サバイブするベンチャー」として大きく取り上げてられていただけに、その号がでて数週間でつぶれちゃうとはRed Herringも大変だよね、と話していたのだが。そのRed Herringまでなくなってしまったのである。

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Red Herringは面白いし、私の仕事に役立つ情報が多い雑誌だった。なくなってしまって残念。エッジーなベンチャーの話が豊富なRed Herringがなくなってしまうと、アーリーステージのリスキーなテクノロジーを扱うベンチャー情報ソースとして残るのはMITの出すTechnology Reviewくらいになってしまう。Wiredはビジネス的視点よりはサブカルチャー的雰囲気が濃厚だし、Business2.0はベンチャーでも、もっとestablishした会社の話が多い。Fast Companyはもっとメインストリームっぽい話の方が最近は主流。シリコンバレーのローカルなものでは、biz.inkというマイナーなニュースレターはあるが情報の掘り方が浅い。

とはいうものの、Red Herringがなくなるのは、広告主の奪い合いが減るので他のテック系雑誌にとっては僥倖。例えばSan Francisco Chronicleの記事によれば、Business2.0では人を増やす計画中とのこと。

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Red Herringはバブルの絶頂の頃「札束が渦巻く中でビキニの女性が笑っている」というイラストが表紙の号が出たときがあった。その表紙を見たときの印象はなんともいえないものがあった。拝金主義に対する反射的嫌悪感と共に「ああ、もうバブルも極まった、後はいつ弾けるかの問題だな」という焦燥感というか恐怖感みたいなものも感じた。(なんと言っても日本のバブル崩壊をたっぷり見た後だったので。)

San Jose Mercuryの記事によれば、その頃Red Herringが2億ドルでの買収オファーを蹴ったという噂もあったとのことだが、今では200万ドルでもRed Herringの名前とsubscriberリストを買う人が現われない。

札束の表紙といい、2億ドルオファーを蹴ったことといい、New Economyのhypeを広げたことといい、後になって冷静に見れば恥ずかしいことばかりだが、果たしてRed Herringは間違っていたのか?

私はそうは思わない。

何事もそうだと思うのだが「時流に乗る」というのが成功の秘訣だ。どんなすばらしいビジネスでも時期を逸したら決して上手くいかない。なんでこんなのが、と思われるビジネスであっても上手く時流に乗れば思いがけなく大成功する。

同様に、インターネットバブルという数十年に一度の大波がやってきた時には、たとえそれがバブルだと思っても乗らないと損だ。しかし、波が来ている渦中では全てが怒涛の勢いで起こるから、何が正しい判断(波の乗っている)で何が間違った判断(波の飲まれている)なのかはわからない。結局「運」が支配する。

とすると、運の前では個人は無力なのだろうか?

私はそれも違うと思う。

「運を引き寄せる行動様式」というものが存在すると思うのだ。「運がやってきたときは大きく張る。運気が下がってきたら小さく張る。でも決してやめない」というのがその行動様式だ。

以前日本で社会人になったばかりの頃、公認会計士の人による財務諸表の研修を受けたことがあった。その時の財務諸表の話は全て忘れてしまったのだが、異様に面白くて印象に残った話があった。それはその公認会計士の「ラスベガスでの勝負の話」である。

彼は毎日深夜まで働きほとんど休みのない生活だが、時々土日に1日半だけ休みを足して、ラスベガスに行くのだという。ラスベガスでは、ぶっ続けでギャンブルをするのだ。

ゲームはスキルより運が重要なものを選ぶ。(確かブラックジャックだった。)そして、まず小額の掛け金のテーブルでひたすらチマチマとかけ続ける。しばらくすると「ツキがやってきた」と感じる瞬間が来る。そうしたら、すかさずより大きな掛け金のテーブルに移る。で、何百ドルとか何千ドルとかバンバン賭ける。不思議なものでツキが来ている間は面白いように勝つ。

しかし、しばらくすると、ツキが去っていくのを感じる。(つまり負け始める。)そうしたら、サッと小額のテーブルに戻って、また5ドルとか10ドルとかをチマチマと賭けて、再度ツキがやってくるのを待つ。睡眠不足で気を失いそうになったら、ホテルの部屋で1-2時間だけ仮眠を取って、またカジノに戻る。

これを繰り返すと、約2日間で必ずかなり儲かって日本に帰ってくるのだそうだ。

本当かどうかはわからないが、人生も似たようなものじゃないか、と思った。それから10年以上たつけれど、その思いは強くなる一方である。

ツキが来た、と思ったときにその波に乗らなければ、決して大勝ちすることはない。というより、ツキが良い時には、ツキが悪くなったときの損をカバーするくらい勝っておかないとならないから、ツキが来たときに勝負しないのはかえって危険でもある。

Red Herringを運営する人たちは、ツキが来た、と思ったときにバーンと張ったわけだ。20億ドルのオファーは逃したかもしれないけれど、1999年に210万ドルだった広告収入が、2000年には870万ドルまで跳ね上がった。しかも上手くいきそうなベンチャーの情報にいち早く触れることができる立場を生かした、広告収入外の経済的メリットだっていろいろあっただろう。

「バブルに踊らずに、地道に経営する」というのは聞こえはいいけれど、そうしていたって、バブル崩壊の広告収入減からは逃れられなかったわけで、結果は同じだっんじゃないだろうか。そういう意味では、「避けられない運命の中では、『少なくともバブル期には大儲けする』という最も幸運なパスを選んだ」と言える。

Red Herringという雑誌はなくなるが、それを動かしてきた人たちには、これからも小さく張り続けて、ラッキーを待って欲しい、と思う。

成功も失敗も紙一重で、アップダウンの激しい不確実な世界では、地道に張り続けるdiligentなギャンブラーであることが大切なのだから。

Posted by chika at 07:30 PM