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April 30, 2003
セミナーしました

NPOのJTPAでセミナーを行った。富士ゼロックスからEFIという上場企業に転職、数段階の昇進を経てVP of Engineeringを勤める方や、ゲームのスクエアでのFinal Fantasy開発を行った後、Electronics ArtsのVP of Technologyとなった方など、4名のパネリストの方をお呼びした。

内容については改めてJTPAのサイトにアップする予定なので、シリコンバレー企業のVPなどの職位について。

Cがつく人は偉いのは誰でもわかると思う。CEO,CFO,COOなど。その次はVP。部門ごとのヘッドがVP。VP of Engineering, VP of Marketingなどなど。その次がDirector、次が平Manager。中間にSeniorとつく人が入ることもある。Senior VPなど。エンジニアについては、Staff Engineerとかいろいろなタイトルがあることもあるが、最後はやっぱりVP of Engineeringにたどり着く。

当地のテクノロジー系の企業だと、これはどこの会社に行ってもほぼ一緒。みんなバシバシと転職するが、それでも、同じ分野の仕事についてManager→Director→VPという道を歩むのが普通(少なくともそうありたいとみな努力する)であり、それには、どこの会社に行っても職位名が一緒というのは役に立っている。

工業製品はスタンダード化が進むとコモディティ化して競合が激しくなるが、人間の世界も一緒。職位のスタンダード化が進むと人材の流動が激しくなるのである。(逆もまた真なり、ではありますが)工業製品ではコモディティ化が進んだ結果の競合激化の末には、規模の利益を追求して製造単価を下げられたプレーヤーの寡占になることが多いが、人間の世界だと、一人の人は基本的には一社にしか勤められないので、競合が激しいまま、という違いはあるだろうか。

ちなみに金融業界はタイトルのインフレが激しい。VPといってもかなりジュニアですね。

Posted by chika at 10:24 PM
April 29, 2003
MBAのダウンサイド

昨日書いたとおり、先週末はMBAのクラスメートのうち女性だけの同窓会であった。
30人来てその内訳は、

子供がいる:12-3人
既婚:20人前後
会社に勤めかつ出世している:5-6人
専業主婦:3-4人

という感じ。きちんと統計を取ったわけではないのでわからないが・・・・。100人ほど女性がいるうちの30人が集まったわけだが、残りは都合がつかなくて来れない人と、人に言うほどの成功を収めていないから来たくない人の二種類に分かれると思う。実際に知り合いでも、「最初に自分の近況を一人ずつ発表するんだけど、あれが嫌だからもう行かない」と言っている人がいた。ごくごく大雑把に見て30人くらいが「人に言うほどの成功を収めていないから来たくない」に入るとすると、「会社で出世している」というのは60分の5、約8%か・・・。育児のために、パートタイムで働いているという人もいたから、男性だったらその確率はもうちょっと高いかもしれないが、それでもまぁせいぜい倍の16%というところではないか。不況のせいもあるとはいえ、履歴書上美しいスタンフォードMBAといってもこんなものだ。

***
それにしても驚いたのは、自分の話しをしながら泣き出す人がいたことである。複数いました。終日の集まりだったのだが、午後は同じくスタンフォードで80年代にMBAを取った女性がキャリアビジョン・セミナーなるものをしてくれた。その講師の人も、自己紹介をしながら「39才でついに人生のパートナーを見つけた」というところで、急に感極まって泣いていた。さらに、会場として自宅を提供したクラスメートは、その日たまたま知り合いの葬式だとかで、途中で抜け出したのだが、葬儀が終わって戻ってきて、亡くなった友人の書いた詩を読みながら泣いた。

「女性というのはこうやって集まるとみんなでウルウルと泣いているのだろうか?」
と仰天、
「とすると、私も本当はこういうウェットな女性的な部分があるのに、それを抑圧しているのだろうか?」
などなど、大きな懸念と疑問が心を渦巻いたのだが、後ほど他の参加者と話したところ「ああ、あれは私も驚いた。」とか「10年近く、隔週で必ず集まる女友達6人組がいるが、誰も泣いたことなんてない」とかの意見だったので、別に私だけが血も涙もない人間だったわけではないようだ。

では、今回の集まりはどうしてそれほどウェットになったのか。

MBAというのは、人生の期待値をあげる効果がものすごく高い。経営や経済の基礎知識ももちろん教えてくれるが、それ以上に「君にもできる」「志さえ高ければ成功する」「トライしてみろ」というハッパをばんばんとかけてくるのがビジネススクールだった。もちろん学校によって違いはあると思うが、実際にFortune500のCEOを多数輩出するようなところは、みんなそういう感じなのではないかと思う。

で、卒業する頃はみんなすっかりその気になってしまうのだが、それでも成功する人はやっぱり一握り。あとはいろいろ挫折も味わいつつ、自分のできることとしたいことの折り合いをつけて、社会の中の自分の居場所を見つけていくことになる。卒業時の期待値が大きかった分、凡庸なキャリアに対する挫折感、敗北感は膨れ上がる。そのアップダウンの経験を思い出して感極まったのが、複数の人がウルウルしていた原因ではなかろうか、と思う。

この「自分の将来に対する期待が膨れ上がること」は、MBAの(かなり大きな)ダウンサイドという気がする。とはいうものの、最近は卒業直後でも仕事がなくていきなりunemployedという人も大勢いて、はなから挫折を味わうことも多いようだが。

というわけで、今日のおまけのニュースはBusiness Week4月28日号のWho Wants to Work for a Millionaire。最近アメリカで流行のReality TVの一環で、不動産王Donald Trumpの元で働く権利を巡ってバトルを繰り広げる、というのが今秋始まるということ。挑戦者は、MBAホルダーと、実体験豊富だがMBAではない人というのが入り乱れるんだそうだ。

The program, which begins shooting on Sept. 14, will feature up to 20 go-getters as they vie for a job at the Trump Organization. Ideally, says producer Mark Burnett, the show will pit "sexy, young, and brilliant MBAs" against other up-and-comers whose main asset is their street smarts. Trump will personally review and fire one contestant each week. Says Trump: "You think Survivor's the jungle? Business is the real jungle."

一体全体どんなオロカナ挑戦者が来るのであろう、と思うが、しかしBachelorという「一人の独身男性(Bachelor)をめぐって大勢の女性が戦う」というReality TVで晴れある初代Bachelorとなったのは、スタンフォードの1年後輩の男性であった。Bachelorにでる人がいるくらいなら、今回のにもでる人がいても不思議ではありません。やれやれ。

Posted by chika at 10:26 PM
April 28, 2003
Midlife Crisis

先週末は、ビジネススクール時代のクラスメートのうち女性だけが集まる、年に一度のWomen's Retreatであった。サンフランシスコで30人ほどが参加。

その中で話題になった記事の一つがHarvard Business ReviewのHow to Stay Stuck in the Wrong Career。有料だがダウンロード可能。30代以降、既にある程度キャリアを構築したところで嫌気が差して異なるキャリアに移る時のコツ、というかDo's and Dont'sについての記事だ。

ポイントは、「少しずつ試しながらだんだん何をしたいかの意志を固めていくべき」ということ。「一般的に信じられているが、実はしてはいけないこと」というのも三つある。

1)本当の自分を知り、その自分が心からしたいことをする
「本当の自分」などいない、と作者は言う。人間の本質というのは何かをしながら、実体験を通じて形成されていくもので、想像や論理ではわかりえないもの。「自分は本当はこういう人間だから、こういうことをすべきだ」というのは失敗の元。

2)信じられるアドバイザーの意見を聞く
自分のことをよく知っている人に意見を求めると、通常彼らは、「自分」の今の状態が続いた方がリスクが少ない人たちなので、とりあえず現状維持がいいのでは、というアドバイスを受けがち。(上司やら、配偶者など)

3)大きな変化を一気に起こす
自分はこういうことが向いているはずだ、という結論に一気に達して、大きな変化(転職、独立など)を一度に実現しようとすると、間違った結果に飛びついてしまうことが多い。

ということで、実は正解は「週末にセカンドジョブとして」とか「まずは小さなプロジェクトで」など、少しずつトライして本当に自分にあうものは何なのかを確かめながらがよい、という。

この記事を裏付けることとして、週末に会ったクラスメートの一人は、彼女の会社(Schwab)の同僚が取ったうそのような本当の話を披露してくれた。

いわく、その同僚は証券会社の暮らしに飽き飽きして、全く違う仕事がしたいと思っていた。そこで、キャリアチェンジのための適性テストを受けたところ1)リテールで直接顧客と相対する仕事がしたい 2)アントレプレナーとして自分の仕事がしたい 3)コーヒーに情熱を持っている
ということが明らかになり、それでは、ということで「コーヒーカート」を起業することにした。そこでカートを買って、それまで働いていたオフィスのあるビルのロビーでコーヒーを売り始めた。しかしほんの数週間で知的刺激のなさに飽きてしまい、元のボスに泣きついてもう一回Schwabに雇用してもらった、とのこと。(「あれ、きみって、昨日まで一階でコーヒー売ってた人じゃないの」なんていうクライアントがいなければいいのだが・・・)

一番のtake awayは上の1番の「人間の本質は行いによって作られていく」ということでしょうか。やってみなければそれが自分の天職かどうかわからない、ということ。アメリカだと、ちょっとサイドビジネスで、という感じで違う仕事を試すのが割合容易なのでよいが、日本のようにリジッドだと「ちょっと試す」というのがむずかしいので困ってしまいますが。

Posted by chika at 10:49 PM
April 25, 2003
国籍と学問

今日、スタンフォード医学部で血液学のProfessorをしているJim Zehnderとランチをした。スタンフォードの医学部の外国人比率はどれくらい?と聞いたら、「facultyはほとんどアメリカうまれのアメリカ人だけど、将来研究の道に進もうと思っているFellowは9割が外国人、その多くが中国人だね」とのこと。多分、ABC(American Born Chinese)も入っている数字を言っていると思うのだが、それにしても凄い数字ではないだろうか?

「アメリカ産まれのアメリカ人は何をしているんだろう」
と聞いたら、
「うーん、それはいい質問だ。ぼくもわからない」
とのこと。(将来患者を診る医者となろうとする人では純アメリカ人比率も高いようだが)移民を莫大に受け入れる、ということは、高等教育の人口分布をこれだけ変えてしまう。白人男性が、マイノリティーをサポートするaffirmative actionが逆差別だといって反抗する気持ちもわからないではない。(ちなみに、アジア系は進学においてはマイノリティーではないので、決してスタンフォードの医学部が中国人にゲタをはかせているわけではないはず。)

ちなみに、Jimの4歳の甥は「将来なんになりたいの」と聞かれて「Caucasion!」と答えた(?)らしいが。Caucasionだと、少なくともスタンフォードでは研究できないかもしれない・・・・。

Posted by chika at 06:02 PM
April 24, 2003
アメリカと日本の業績判断

衝撃的・・・と思うのは私だけだろうか?

■Nikkei.co.jp:ソニーの純利益、ゲーム・映画好調で7.5倍に回復 2003/04/25 02:25
■CNET:'Spider-Man' can't rescue Sony this time  April 24, 2003, 7:26 AM

時差を勘案すると日本のニュースの方が6時間遅いだけ、というほぼ同時のニュースで一方は「ソニー絶好調」といい、一方は「ソニー絶不調」と言っている。日本は年度決算の数字を見ていて、アメリカは第4四半期の数字を見ているからなのだが、最初、CNETの方は間違えて去年の記事を読んでいるのかと思って、思わず日付を確認してしまった。

アメリカのほうは「Sony, the consumer electronics behemoth, stunned investors on Thursday by falling far short of earnings targets and projecting a profit slide 」、日本のほうは、「純利益が1155億円と前の期の7.5倍に回復した。ゲーム、映画部門が好調だったうえ、パソコンを中心とするエレクトロニクス部門も採算が改善した。」同じ会社について言っているとは思えない。

日本側も、「ただ2004年3月期はパソコンの販売が減速しているうえ、1400億円に上るリストラ費用が利益を圧迫し純利益は500億円に減る見通しだ」とはしているが、アメリカ側の「インベスターは悪い結果に驚愕(stunned)した」という表現とは大違い。

企業業績で重要なのは、将来どうなるか。過去の実績が重視されるのは、それが将来業績の指標となるからである。アメリカ型の四半期ごとに成果に追われる近視眼的経営にも問題はあるが、今回のニュースを見ると、どちらも「2004年は悪そうだ」という点では一致している。日本の「それでも2003年がよくてよかったね」というご褒美的喜びは、残念ながらビジネスの世界ではほとんど役に立たない。それより来るべき暴風に備えて何をするか、という方が重要。ということで、今回は「四半期判断」のが「年度判断」に打ち勝ったといえましょうか。とはいうものの、もしかしたら、書いた記者の人が日本側はたまたまとても楽天的な人だっただけかもしれないが・・・・。しかし、他の記事もこういう楽天主義で書かれているような気がすることも多い。今回は日米で、強烈に全く逆のコメントを時を同じくして出したので目立ってしまっただけか。

そういえば、最近日本の株価は21-year-lowまで落ち込んでいるが、全然騒がれていない、というより、落ちている瞬間に「落ちている」という速報が出る以外、それを語った記事を見かけることすらない。少なくともオンラインでは。これも傍目で見るとかなり驚愕的なのだが、日本では皆さんどう思っているのでしょうか・・・・。

Posted by chika at 12:55 PM
April 22, 2003
Amgenの大儲け-なぜバイオはすごいのか

Amgenの第一四半期のnet incomeが、45%アップして$493M。CNNMoneyの記事はこちら

これがどうしうて凄いかというと、Amgenという会社は基本的に1種類の発明だけでこれだけ儲けているのである。

Wall Street Journalによれば
Amgen owes most of that growth to its drug Aranesp, which treats anemia, and Neulasta, which helps fight infections. Both drugs are second-generation versions of older products that brought in more than $250 million in the quarter. Amgen's predecessor to Aranesp, an anemia drug for dialysis patients called Epogen, also racked up improved sales in the quarter.
とのこと。要はEpogenという薬を開発して、一発屋としてこれまでやってきたが、それをちょっと変えた第二世代のAranespとNeulastaという薬も売れて、利益が飛躍的に伸びた、ということ。

ということで、アナリストも、"These aren't one-time trends; it looks like they're lasting"という。(しかし、そのアナリストは、この文章の直後に"at least for the rest of the year" ともいっていて、金融の世界の人たちがいかに短いいスパンで物事を考えているかわかっておかしいのだが)

Amgenの今年の売上げ予想が7.1Bから7.6B。2000年が$3.6B、2001年が$4B、2002年が$5.5Bという実績なので、ここ4年間だけでも$20B、2兆円を超す売上げなのである。これが基本的にはコアとなる薬を一つ開発しただけで達成できてしまうのだから、製薬というのは信じられない業界である。いったん開発した薬はその構造そのものが特許となり、しかもここの薬が、臨床実験を含めた長い認可プロセスを必要とするので、ひとたび効く薬ができれば、長期間にわたって利益を享受できる。

信じられないほどの利益が上がるがゆえに、製薬(Pharmaceutical)はずっとbig playerの寡占が続いてきた。開発費が莫大にかかり、しかも許認可が複雑で時間がかかるため、エントリーバリアは高く、その業界構造は未来永劫崩れないと思われていた。ところが、DNAというものが発見され、しかも人間の体の中で薬のように活躍するたんぱく質をDNAを使って人工的に作れる、ということで「DNAを使って役に立つものを作る」という新たなインダストリーが誕生する。それがbiotechだ。そもそもはGenentechから始まり、Amgenがその後続なのだが、今ではGenentechの市場価値は$20B弱なのに比べて、Amgenは$80B(10兆円)弱と4倍で堂々バイオのトップ企業となっている。

と、ここまで聞くと「フムフムなるほど」という感じだが、果たしてbiotech以外の方法ではどうやって薬を作ってきたのだろう、という疑問がわく。

なんと驚いたことに、「何だか効きそうな物質」をたくさんライブラリー化しておいて、それをああでもない、こうでもない、と試してその中から探し出しているのである。「マリファナは苦痛が減る」という経験則に基づき、そこから痛み止めの成分を抽出する、というのはわかりやすい例。

人間は実は太古の昔から様々な効き目を持つ物質を自然界から抽出して使っている。例えば、Ice Man(邦題は5000年前の男)という本には5000年前に行き倒れになった男の死体が、氷河の中からまるで最近死んでちょっとミイラ化しましたという感じで表面にでてきた、という画期的な出来事の顛末がある。(ノンフィクションです)5000年前というのは、日本だったら縄文時代。この本で私が一番驚いたのは、その男が抗生物質を携帯していたこと。柳か何かの木の樹脂を小さな入れ物に入れて、腰から下げていたのだが、その樹脂は実は抗生物質(確かペニシリン)で、病気になったときのために持ち歩いていたのだあろう、という推測。うちのおじは子供の頃肺炎で死にそうになり、もはやこれまでというところでやっと医者がペニシリンを注射してくれて一命を取りとめたそうだが、それが5000年前から発見されていたとは。

私の知り合いのアメリカ人は、昔某日本の製薬会社で研究者として働いていたのだが、当時年に一回孤島出張というのがあったのだそうだ。確か屋久島かどこかに、世界でも類を見ない微生物がたくさんいる、ということで、島のあちこちで、サンプルを収集して持って帰り、そこから何か抽出できないか、とトライアンドエラーする、というのが大切な研究だったそうだ。(その島の宿では、信じられないくらい巨大なゴキブリが常にあちこちを歩き回っていて、死ぬかと思ったそうである)

基本的には製薬会社というのは、こうした「物質ライブラリ」を大量に持っていて、何か新しい病気が発見されると、「経験則的に見てこのあたりの物質が効きそう」というのを大量に病気の原因となる物質に体当たりさせてみて、効果があるかどうか試す。格好よくHigh Throughput Screeningなどと呼ばれているのだが、ITの世界の人間からすると、驚くべき場当たり的、前近代的研究に感じられないだろうか?

しかし、思うに、半導体ができる前のITも似たようなものだったはずだ。世界最初のコンピュータの一つEniacは、18,000個の真空管でできていたがゆえに、計算の途中であちこちの真空管が焼き切れてしまい、なかなか役に立つ計算を完了させることができなかったという。(軍隊向けのシュミレーションをするときは、業を煮やした軍が、買い物かごに予備の真空管を入れた兵隊を1小隊Eniacの周りに待機させたという笑い話のような逸話もある。ちなみに、当時真空管が暖かくて明るいので虫が集まりやすく、内部に入り込んだ虫が原因でショートした。そのことから、「コンピュータを直す」という意味で「debug」という言葉が使われるようになった。)

ITは半導体が発明され、それを起爆剤としてハード・ソフトも進化した結果、過去3-40年の間に精度がどんどん上がって、今のように1は1,0は0としてデジタルに扱うことが可能になった。Windowsがフリーズしやすいといっても、「同じ計算の再現性は30%」なんてことはいくらなんでもおこらない。

これから、バイオの世界でも同じことが起こっていくはずだ。DNAというのは本質的に4種類のデータによって成り立っているデジタル情報媒体であり、熱しても壊れない。ここにITが培ってきた精密製造技術、情報処理技術を適用することで、格段の進歩が実現できるはず。

ということで、これからバイオとITの融合分野が楽しみなのであります。

Posted by chika at 09:53 PM
April 21, 2003
Silicon Valleyで話題の本

最近ちょっと話題な本がWhat Should I Do With My Life。Nudist on the Late ShiftやFirst $20 Millionなど、Silicon Valleyの生態学的な本を書いてきたPo Bronsonの新作。

一体全体どうしたら人生を有意義に生きられるのだろう、と模索する900人を2年間かけてインタビューして書かれたもの。Silicon Valley周辺の人も登場するが、全然関係ない人もでてくる。全部読み通した感想を一言で言うと「キャリア構築の自由度が高い社会というのは、自由であるがゆえに苦しいこともいっぱいある」ということ。日本のように束縛が大きい社会だと、いろいろと責任を転嫁できる先もあるが、何事も自分で選択したとなると、全ては自分の責任。

とにかくいろいろな人がでてくる。離婚した妻が引き取った子供と過ごす時間を大切にするために、弁護士を辞めてトラックの運転手になった人。(その子供は妻の連れ後で彼とは血の繋がりがないが、彼はその子を深く愛している)Harvard Business Schoolをでて、Fortune150に入る企業の跡取りの座にありながら、Los Angelesの危険な地域で夜中のパトロールをする警察官。(この彼は、海に面した豪華なコンドミニアムに住み、ベンツで警察に通うという、まるで漫画の主人公のような生活である)バレリーナとステージモデルからStanford Business Schoolに行き、McKinsey、Sunと経て、未だ自分のしたいことにたどり着けない女性。(彼女は、私の一つ上のクラスだった)スキーに行く休暇が欲しいと、会社生活を辞めて、林業の農家事業を買い取って自分たちの事業にした夫婦。

最もアメリカらしいと思ったのは、自由であるが故の苦しさが何度も現われること。

自由意志が尊重される社会アメリカでも「人生の岐路に立った時、自分の判断を押し付けてくる親」というのがステレオタイプ。しかし作者のPoは900人にあって、「『自分のしたいようにしなさい』と自由な選択を尊重するばかりで、子供が迷いのさなかにあるときにその『自分探し』をサポートしない親」という方がずっと多い、とコメントしている。いわく
young people who were given too much leeway by parents afraid of being overbearing, when their children really needed help in identifying what was important to them.

Du Pontで将来の幹部候補として恵まれたengineerの職を得ながら、鬱病になり会社を辞めて実家に帰り、抗鬱剤を飲みながら学校教師をしていた女性が、「誰にも一度も抗鬱剤を飲んでいることすら話したことがない」とPoに言う。どうして自分だけに話したのか、とPoが聞くと
Because you're the only one who really asked.
という答えが返ってくる。アメリカらしいなぁ、と思う。悪く言えば「詮索好きで押し付けがましい」、よく言えば「親身で親切」な人が多い日本の究極の逆側にある。

私の20代の頃の悩みは、「こうあるべき」といろいろな人(主に年上の男性)にあれこれ言われることをどうやってシャットアウトするかだった。いわく「結婚したら家に入るものだ」「男性社員に対しては年下であっても全員さん付けすべきだ」「もっと苦しい恋をしろ」などなど。今だったら「ひょえー」と言って笑って終わりだが、当時は「やはり人生長く生きている人の言うことには一理あるのではないか」と、どこまで受け止めるべきなのか図りかねていた。とは言うものの、何を選択しても、「自分の思うとおりにしなさい」としかみんなに言われなかったらそれはそれで苦しいものがあったかも。想像もできないが、アメリカで成長するというのはそういうことなのかもしれない。

さて、Po Bronsonのメッセージは「夢を閉じ込めて、生活のため、金のためにつまらない仕事をすると、苦しいばかりだよ」ということ。900人話をして「いったん事業で成功した上で、若い頃の夢に戻って実現した」という人は一人もいないんだそうだ。

ということで、不景気で自分の人生を見つめなおす人の多いSilicon Valleyでちょっとばかり流行っているWhat should I do with my lifeでした。

Posted by chika at 11:46 PM
April 20, 2003
Italy & Japan (聖マリア症候群)

19世紀以降のイタリアと日本におけるリーダーシップについて比較したMachiavelli's Childrenを最近出版したMITのRichard Samuels教授のセミナーに金曜日に行った。イタリアは、日本との比較において最近とても気になっていた国。「出生率低い」、「失業率高い」、「マザコン多い」、という3つの共通点があるからである。

セミナーの本題の日・伊比較は大変興味深かったのだが、私の「面白アンテナ」に引っかかったのは、ちょっと本題とは外れた出生率の話。レクチャーの後に、なぜイタリアの出生率が低いかという質問があり、Because women are saying "fuck you" to the society(これはProf. Samuelsの言葉)とか、Women choose career over having childrenとか、いろいろコメントがあったのだが、「またいつもの議論だなぁ」と笑ってしまった。女だけで子供が産めるわけでなし、出生率が低いのは、男女の問題じゃないのか。もちろん、シングルマザーを増やすというのも実は出生率を高める方策なので、そうなるとまぁ女性の意志が強力にきいてくるのだが、それにしても、こうしてまるで他人事のように男性が出生率の議論をするのを聞くと、なんだかおかしい。こうした「出生率低下を女性の問題とすること」を、「聖母マリアはvirginでキリストを身ごもった」と信じることにもじって、Virgin Mary Syndromeとでも名づけたいところ。

さて、セミナーの本旨であるイタリアと日本の比較に戻ると、日・伊の共通点は、

1)1860年代に突如進んだ西欧文明の只中に「国家」として登場、「国民としてのアイデンティティ」を作り上げなければならなかったこと。
2)さらに、どちらも「進んだ西欧社会に追いつけ追い越せ」という切迫したゴールがあったこと。

相違点は、日本は国民アイデンティティを速やかに確立したが、イタリアはムッソリーニが登場するまでstruggleしたこと。明治政府は、樹立当初にその正統性を主張するために天皇と神道を担ぎ出して大成功したが、イタリアは、ローマ法王の支配から逃れるのが国を国として統合した目的だったので、宗教を用いることができなかった。

***

日本の将来については、Prof. Samuelsは「日本が変化を必要としていることは誰もが言うことではある。しかし、それが国をさらに開くという変化なのか、もう一回国を閉じるという方向への変化なのか。どちらも可能性はある」とのこと。

私は個人的に大学の頃から日本の将来には鎖国という可能性があることをずっと思っている。その思いは今も変わらないが、国を閉じる、というとき「人」「もの」「金」の三つを全て閉じたら江戸時代並みの鎖国であるが、「人」の行き来だけ許したまま「もの」と「金」な流れを極力小さくする、というニューバージョンの鎖国というのもあるかもしれないなぁ、と思ったりする昨今ではある。

Posted by chika at 09:25 PM
April 16, 2003
E*Trade

SmartMoney.comのETrade Reports Profit, Plans Restructuringにあるように、E*Tradeの第一四半期は$21.5Mの黒字。去年の同時期が$270Mの赤字だから、大好戦である。が、大幅なリストラも予定されている。やれやれ。

アメリカ企業、それもハイテクにおいては、社員は景気がよければどんどん雇い、悪くなったらがんがんレイオフするという「変動費」になっている。この緊張感があるから、みんな一生懸命働くのも事実なのだが、変動費化しているプロフェッショナル社員たちにとっては、働くことは戦いである。不安定なのはやっぱりつらい。

***
ここ2年ほどアメリカではreality TVといわれるテレビ番組が大人気である。最後に一人が勝ち残るという形式で、アドベンチャー系Survivor、恋愛ゲーム系Bachelor(一人の男が大勢の女から一人を選ぶ), Bachelorette(Bachelorの逆),スター誕生系American Idol、などなど、数多くの番組がこれでもかとばかり毎シーズン繰り広げられる。日本ではもう随分も前から、電波少年やら料理の鉄人やらが大流行だったので、随分遅くやってきた流行という感じだ。

日米両方のreality TVを見て思うのは、日本のreality TVが「embarrassment」を主要なテーマにしていることが多い(裸で一室に閉じ込められて懸賞はがきを書くのなんて、embarrassmentそのもの!!)のに比べて、アメリカのものは「survival」がテーマなことが多いということ。これは、日常生活の中で、日本で多くの人の心の底にある恐怖は恥をかくことだが、アメリカでは生き残れない(勝ち残れない)ことで、それぞれ、多くの人の心の中の恐れを映し出すテーマだから、みんな手に汗握って見てしまうのでは、というのが私のうがった見方である。アメリカで大成功したSurvivorも、日本版は全く泣かず飛ばずだったようだが、さもありなん。

とはいうものの、日本もこれからはSurvivorに手に汗握る時代になりそうですが。

そうそう、ちなみに私の入っているオフィスは、パロアルト市内の、何の変哲もない3階建てのビルにあるのだが、このビルはなんとE*Trade発祥の地なのだ。屋上に行くと当時の名残で、いろいろなデータフィード用の衛星アンテナが立っている。とある人から聞いた話では、E*Tradeは今の業態の前は、カスタムPC屋みたいな仕事をしていたらしい。で、ある日新しいCEOを雇って、そのCEOがうーんとうなって考えた新規ビジネスがE*Tradeの原型だったとのこと。ということで、私の職場は実は由緒正しいビルにあるのである。なんの面影もないが。オフィス探しのときに見た別のビルはGoogleとDangerが続けてテナントになっていたという触れ込みで「増資のできる縁起のいいオフィス」とオーナーが強調していた、なんてこともありました。

Posted by chika at 09:35 PM
April 15, 2003
Linksys再び・・・

今朝の新聞のビジネスの一面にでかでかとLinksysオーナー夫婦のにっこり写真つき記事が。

前に、Linksysの売却価格の対売上げ倍率がドーナツ屋にも及ばないというentryを書いたが、$500M分で売り払ったのはこの記事のタイトルにあるような、"A COUP FOR WIRELESS NETWORKING LEADER"もんであろうか、と疑っている。(Coup、はクーデターのクーだが、Coupだけだと大成功というような意味となる)キャッシュだったら話は別だが、Ciscoの株での$500Mである。私はCiscoの株もまだまだ何割か(もしかしたら100%くらい)over-valueだと思っているので、正味売上げ比率1以下で売却したということに近いと思う。

しかし、写真は本当ににっこりしている。にっこりの理由としては2つ考えらる。一つは、オーナー兼ファウンダー夫婦が会社の大きなパーセンテージを持っており、Cisco売却益はほぼ全てこの夫婦の手に入るのではないかということ。「そんなの当たり前じゃないの?」と思われるかもしれないが、ファウンダーが会社の6割以上持っていても不思議じゃない日本のベンチャー(や中小企業)と違って、シリコンバレーのベンチャーでは、ファウンダーの持分が一ケタ台(のそれも下のほう)ということは往々にしてあるのである。

Linksysは夫婦で手持ち資金で始めて、10年以上かけてだんだん大きくした会社ということで、恐らく自分たちでほとんどの持分を握っていた可能性がある。しかも、基本的には迅速にユーザーニーズに合致したものを開発・販売するという、operation excellence型の企業で、IPOを狙うような差別化された技術があるわけではないので、恐らくストックオプションなんかも少なかったのではないかと想定される。というわけで、全体としての売却価格よりも、ファウンダー個人へのインパクトがでかいという可能性が一つ目。

二つ目は、ちょっと重複するが、operation excellence型というのはある意味しんどいビジネスである。上場したら、情報開示で企業秘密が丸出しになってしまって大変だ。(特許なんかで守れるものがあれば話は別なのだが・・・)上場というexitが困難な以上、network機器メーカーとしては、Ciscoに買ってもらうのは、最上のexit。

ということで、(しつこいようだが)Donuts屋よりprice sales ratioが低くてもやっぱりにっこり、なのであろうか・・・。

(ちなみにCiscoのP/Eは32で、マイクロソフトの28より高い。そんなはずはあるまい、と個人的には思うのであった。)

Posted by chika at 09:20 PM
April 14, 2003
プレゼンテーションの力

今日はというStanford大学Biodesign主催の"Innovator's Workbench"というセミナーに行ってきた。Biodesignは、メディカルデバイスでのイノベーションにフォーカスしたプログラム。この分野で、過去15年間で成功したスタートアップの70%はベイエリアにあるとのことで、その起業家を招いての6回シリーズの4回目である。今日は耳鼻科の医者として患者を診ながら、かつStanfordのprofessorをしながら、かつ5つのスタートアップを起業したDr. Rodney Perkinsがゲスト。

Dr. Perkinsのように「山のように起業し(しかも成功する)バイオ・メディカル起業家」というのも最近着目しているテーマなのだが、(13個成功したベンチャーを起業したという人にもあったことがある!!)それはまた別の機会に書くとして、今日は「プレゼンテーションの重要性」について。セミナーのQ&Aの時間に、「今になって振り返って、最初の起業を始める前に身につけておけばよかったと思うスキルは何か」という質問があったのだが、それの答えが
「プレゼンの力。パワーポイントとかね。フフフ・・・」
とのこと。

いわく、entrepreneurにとって最も重要なのは、アイデアを理解してもらい、弁護士、会計士、投資家などをひきつけること。そのためには、プレゼンテーション力、表現力がとても大事、とのこと。

***

私がマッキンゼーというコンサルティング会社で、最も感心し、最もためになったのは、プレゼンテーションのノウハウだった。「どうやって分析するか」という「思考方法」的なことについては、それほど目からウロコなことには出会えなかったのだが、「どうやって説明するか、どうやってわかってもらうか」については、本当に勉強になった。ありがとう、マッキンゼー。

まず第一に驚いたのは、「説明するということにどれだけ時間と労力をかけるか」ということである。イメージで言うと、それまでの私だったら「パワーポイント3枚くらいで説明できるな」と思ったことに50枚くらいは費やさなければいけないのであった。

しかも、1枚1枚が濃い。例えば、「社員は不満を持っている」とたった一枚書くために、クライアント企業の全国の支社を回って、社員数十名に1時間ずつインタビューするとか。しかも「社員は不満を持っている」ということがほぼ明らかになったあとで、それを裏付けるためだけに全国行脚をする。「なんて無駄なことを。アホちゃうか」と正直最初は思った。しかし、大勢の人を納得させるには、それくらいの裏づけが必要なのである。

***

三菱商事時代の同僚で、ハイテク・コンピュータ系の仕事をしている人が、マッキンゼーのIT関連セミナーに行って
「当たり前のことをひたすら言っててつまらない。マッキンゼーもたいしたことないね」
というようなことを言ってきたことがあった。多分、どんな領域でも、その最前線で日々切った張ったの商売をしている人は、同じような感想を持つと思う。

しかし、だからといって、マッキンゼーのような戦略コンサルティングに意味がないわけではない。同僚にはこんな風に説明した。
「戦略コンサルティングというのは『相撲取りが太っていること』を証明するみたいな仕事なんである。相撲を見たことがある人にとっては、相撲取りが太っていることは自明で、説明の必要すらない。しかし、もし相撲なんか見たことも聞いたこともない国で、『相撲取り育成プログラム』を始めるとすると、まずどういう体格の人が必要なのか、ということを誰にでもわかるように説明しないとならない。そのときには、体重対身長比とか、体脂肪率とか、平均体重とか、とにかくデータをきちんと示す必要がある。コンサルティングもそういう仕事。」

もちろん、「相撲」は「仕事・業界」のたとえ。このままのたとえを続けると、会社の中で言えば、若手・中堅は毎日国技館で相撲を見ているが、トップに近くなればなるほど、相撲を見たことがなく、「相撲取りはデブなんですよ、なんでわからないんですか」と下々の者がどれだけ机をたたいても理解されない、ということ。ばかばかしいと思っても、これでもかというほどデータを調べて、それを相手の心に響くビジュアルに整えて、(つまりプレゼン資料を作って)はじめて理解されることがたくさんある。

マッキンゼーに入る前は、「上司がわかってくれない」と思っていたが、本当は「上司にわからせることができない」私の問題だったのだった。

というわけで、プレゼンは大切なのである。ま、とはいっても、「相撲取りを実際につれてきて見せる」という裏ワザ的説得術もあって、私は結構それが好きなのだが、これも説明すると長いのでまたの機会に。

Posted by chika at 10:18 PM
April 13, 2003
問題解決

「アメリカ人は問題を細分化して解決し、日本人は問題の周りを回りながら、だんだん輪を縮めて解決する」
と昔とある日本通のアメリカ人が言っていた

今日のSan Jose Mercury Newsのビジネスページを見て、その言葉を思い出した。一面(というか、正確にはまるまる3ページ)HPのことしか書いていない。というより、Carly Fiorinaについて、と言ってもいいくらいひたすら「それでHPはどうなったか」ということが幾つもの記事になって書いてある。

いわく、

The HP-Compaq Verdict: so far so good
合併は今のところ上手く言っているといっていいだろう、という内容。

One year later, `HP Way' no longer rules workplace
17,900人の大量レイオフを通じて、HP Wayは消え去りつつある、ということ。

Catching up with Carly Fiorina
は、Fiorinaの講演でのQ&Aを原稿に起こしたもの。意外なことは特に言っていないのだが、「重要な決断は一人でするもの」とか、「偏見は偏見を持つ人の問題」とか、ふむふむ、その通りということを明快に語っていて、すっきり。後者はこんな感じだ。
Day in and day out, I see people who had to overcome a lot frequently deliver more than people who haven't. As part of this internal compass thing, whatever people think about you, prejudices they have, those things are their problem. Don't make it your probl

もとい、日曜版とはいえ、ビジネス欄が一社のことで埋め尽くされているなんて、日本の新聞では考えられない。しかし、ここはシリコンバレー。テクノロジーのことしか考えていない人が大多数である。好きか嫌いかは別として、とにかくテクノロジー関連の仕事をしている人ばかりなのだ。だから、日曜版をテクノロジー業界で話題となった一社だけでいっぱいにしても許される。

今日の新聞に象徴されるように、このあたりに住んでいる人のほとんどは、テクノロジー産業のことしか考えていない。基本的には。鉄鋼産業や農業や自動車産業は遠い遠い世界の出来事であり、そんなこと考える必要も余裕もない、という感じ。

アメリカは国全体がこうなっている。ハリウッドに行ったらほとんどの人がエンターテイメントしか考えていない。DCに行ったらほとんどの人が政治しか考えていない。でもそうやって、細分化して、地域ぐるみで特定産業のことだけ考えるのがアメリカ的。

というわけで、「問題は細分化して、個々のピースをばらばらに解決する」のは、個々人や組織の問題解決の場合だけではない。
「産業という問題は細分化して、個々のピースを(地域ごとに)ばらばらに推進する」
といえば、それはまさにアメリカ。国がまるごと問題分散処理という成り立ちになっていると言えるのである。


Posted by chika at 09:51 PM
April 12, 2003
Apple - Universal

AppleがUnversalを買おうとしている、というスクープが金曜から話題になっている。

デジタルライツとか、Appleの戦略性とか、そういうまじめな話はCNETの記事をはじめ、あちこちで語られているので、脇道的コメントで面白いと思った記事の抜粋。

Who knew Apple even had that kind of cash?
-Slashdots
噂されている買収金額は$5-6B(6-7千億円)で、5%を切る(広義の)PCシェアしかないAppleが$4.4Bのキャッシュを持っているのは、確かにびっくり。しかし、Microsoftの$40B(5兆円)の現金資産とは比ぶべくもないが。

One executive who talked recently with Steven P. Jobs, Apple's chief executive, about the music business said: "It makes no sense. He didn't seem like a buyer of music."
New York Times
これは大きなお世話ですね。

Some music industry executives, feeling insecure after three years of sinking sales, expressed excitement that someone wanted them at all.
San Jose Mercury News
これはちょっと悲しい。

But once the decision is made, I think everyone will get on the train as it moves forward."
Forbes
Copy right問題で、なかなか音楽のネット配信が進まなかったが、Appleが世界の音楽のトップシェアを持つUniversalを買収すれば、それが大きく前進するだろう、ということ。でも、get on the trainと言われても、電車に乗ることのないベイエリアの生活では実感がわかないんだが・・・・。

ちなみに音楽ダウンロード市場はJupiter Researchによれば30-50万人のsubscriberで5千万ドル規模しかないという。Apple-Universal Dealで電車でGo!となったら、「超」がつく画期的なできごとであります。

Posted by chika at 11:09 PM
April 09, 2003
遺伝とIQ

2000年の終わり頃から、「ITとバイオの融合」というのが私のテーマで、いろいろとバイオについて学んでいるのだが、いろいろと驚くべきことがある。しばらくぽつぽつと、部外者から見た驚くべきバイオの話について書いていきたい。

まずはMatt RidleyのGenomeから「intelligenceをつかさどる遺伝子」について。

■まず、IQテストの結果の相関関係を見て欲しい。100に近いほど相関が高い。
同一人物が二回テストを受ける 87
一緒に育った一卵性双生児   86
別々に育った一卵性双生児   76
一緒に育った二卵性双生児   55
血のつながった兄弟姉妹    47
一緒に暮らす親と子      40
一緒に暮らさない親と子    31
養子として一緒に暮らす子供   0
別々に暮らす赤の他人      0

ということで、一卵性双生児では、たとえ別々に育っていても、同一人物に近いほどのIQの相関があるが、一緒に暮らす子供たち(ゆえに環境要因はほとんど一緒)でも、血のつながりがなければ、まるで赤の他人のように全く相関がない。つまり、IQはほぼ遺伝子の配列で決まってしまうのである。努力しても無駄ってことなのか・・・。

もうちょっと細かく見ると、

The heritability of childhood IQ is about 45%, whereas in late adolescence, it rised to 75%. As you grow up, you gradually express your own innate intelligence and leave behind the influences stamped on you by others

ということで、幼い頃は遺伝的要因より環境要因の影響が大きいが、育つにつれて、元々生まれ持ったIQに近づいていく、という駄目押しのデータ。英才教育なんかしても、結局は持って生まれたものに近づいていくのである。

ということは、IQをつかさどる「intelligence gene」もあるはず、ということで、実際にも研究もされていて、1997年にRobert Plominが発表した、第6染色体上のIGF2Rというのがそれ。

ま、そもそもIQが知能の指標として適切かどうかという問題はあるが、「いくらがんばっても生まれついて持ち合わせた才能以外は開花しない」ということだと理解。ますます、手持ちの素材で何とか差別化しなくては、と心を引き締めたのでありました。
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ちなみに、この本はとても面白いので、お勧め。いろいろな遺伝子にまつわる不思議な話、面白い話がたくさん載っている。多分日本語訳もでていると思います。

Posted by chika at 09:25 PM
April 08, 2003
Newsとblogの違い

CNetがGoogle:Is all the news fit to post?という記事で、Google NewsがPress ReleaseをNewsと混ぜて載せているのはふさわしくないと指摘。ちなみにGoogle NewsはGoogleが運営しているbeta版のニュースフィードサイト。Googleは、

Google News areas "where press releases are included but not clearly marked are bugs," a Google representative said.

ということで「バグ」なんですね、これ。もとい、面白いなと思ったのは主題とは別で、「一人で編集しているサイトはニュースではない」というGoogleのコメント。Infoshop.orgという半資本主義アナーキーサイト(!)が、いったんGoogle Newsのdatabaseに含まれたが、その後はずされた。GoogleはInfoshop.orgにこんなメールで説明したとのこと。

"We are not accepting sites where all articles are produced by one individual. We are looking for sources with current news written by a staff of reporters and edited by a staff editor."

ふむふむ。つまり一人で作っていたらNewsではないのですね。

News:複数名で作成、レポーターと編集者が存在する。ある程度の客観性がある。
Blog:一人で作成、良くも悪くも主観的。
ということであろうか。blogの定義もきちんとないので、下のほうはpersonal publishingともいえるが。
一人で作る、複数で作る、という分け方が一つの軸にはなる。それ以外の分類軸としてはたとえば、
 特定分野について書く⇔書いている主体の興味のフィールドを広くカバーして書く
 メッセージを伝えるために書く⇔自分の考えを整理するために書く
などなど。何かアイデアがあれば教えてください。

Posted by chika at 10:45 PM
April 07, 2003
Bay Areaの住宅相場・金利・日本経済

Silicon Valleyの社内紙、San Jose Mercuryの朝刊に住宅価格下落せずという記事が。

この2月のPalo AltoからSan Franciscoの南までのSanta Claraで戸建住宅のmedian価格は$490,000、up 5.4 percent from February 2002 and down 1.4 percent from February 2001だそうだ。約6000万円。景気が最悪というのに住宅価格が下落しない理由がいくつか載っているが、その一つが住宅金利の低さ、と書いてある。

しかし、金利そのものの低さに加えて、その柔軟性にも目を見張るものがある・・・。

まず、最初にキャッシュを払って金利を下げることができる。借入金総額の1%を1pointとして、1point支払うごとに、金利が(一般的には)8分の1%安くなる。頭金とどう違うんだ・・・と思う人もいるかもしれないが、頭金は売り手に支払うお金、pointは金融機関に支払うお金。また、金利分は税控除の対象なのだが、pointもそうなので、借り手にとってはtax meritがあり、貸し手にとってはリスクが軽減できる、という仕組み。

また、自営業の人に最適なstated income loanという「収入自己申告型のローン」もある。stated incomeだからといって、大企業から給料をもらっている人に比べて、ほんの0.5%ほど金利が高いだけ。さらにはno ratio loanなる収入額も雇用先も秘密のまま借りるローンまである。(収入に対する返済額割合を計算できないのでno ratioなんですね)このno ratioでstated incomeより0.25-0.5%金利が高いだけとのこと。

私は自営業でstated incomeが最適なのだが、
「そうか、大企業に勤めているときより0.5%分しかリスクが高くないと思ってもらえるのか」とまず喜び、
「しかし、収入も仕事も言えないような人より0.25%しか安全じゃないなんて・・・」とちょっとむっとするが、いずれにせよ、リスクというのはちょっとした小さな金利差で吸収できるものなんだと意外な気がする。

日本で三菱商事をやめるとき、会社保証の住宅ローンを借りていて、それが借り換えできないと会社が辞められないという、身売り女郎のような状態になったことがあった。全然貸してくれる銀行がなくてしばらく心臓がバクバクした状態で時を過ごした。その頃、金利は2%そこそこで、どこの銀行も空前の低金利を売り物にしていたが、私は
「金利5%くらい払ってもいいから、頼むから貸してくれ」と思った。しかし、そういう「リスクに見合った金利」というものは日本には存在しない。銀行で貸してくれない人は、サラ金にいくしかない。でもサラ金で住宅ローン貸してくれるところもない。
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アメリカでは、不景気にもかかわらず消費者市場の冷え込みが抑えられているのは、住宅が下支えしている部分が大きい。もちろん、住宅市場と景気相場はタイムラグが何年かあるのが普通だが、それにしても意外なまでに持っている。それには、この「リスクに見合った金利で資金を融通する仕組みがある」ことが、大きな役割を果たしているとされている。

一方、それをそのまま裏返して「リスクに見合った金利で資金を融通する仕組みがない」ことが、日本経済が立ち直らない理由だと思う。

アメリカでは、企業の資金調達でも、株式、債権の市場が充実しているのはよく知られているところだが、それ以外でも、例えば売掛債権を割引して買ってくれるfactoringなんかが普通に存在する。もちろん、リスクが高ければ、その分金利(や手数料)が高いことでバランスが取られている。しかし、日本ではこれは「手形割引」てな感じで電信柱なんかに張り紙がはってある、ちょっとアブナイ金融会社の世界。

日本で総合商社という、世界に類を見ない業種が繁栄したのも、正当なリスクに見合った金利で資金を提供する金融機関がないからだと常々思っていた。おおざっぱに言うと、売り買いの取引の間に入り、売り手には早めに料金を支払い、買い手からは遅めに料金を受領して、ファイナンス機能を提供するのが、重要な商社機能とされている。trade financeというかっこよい言い方をするが、要は手形割引を大々的にやってるだけともいえる。でも、まともな金融機関がこういう機能を提供しないので、人気者になった。

みんなが恐れる「リスク」だが、システマティックに処理すれば、結構ちょっとした金利差で吸収できてしまうものなのだろう。0.5%なんていう誤差みたいな金利差でもちゃーんと機能している。フタを開けてみれば、結構manageableなことが多いのがリスク。でも恐れてフタをしたままでいるとどんどん育って怪物になって手に負えなくなってしまう。うーむ。

全っくの余談だが、大学の同級生が、真夏に炊飯器に炊いた米を入れっぱなしで放置していたら、むくむくと天然色のカビが育ち、ある日フタを押し開けてあふれてきたと、蒼白な顔で語っていたな。彼は、炊飯器ごと捨てていたが。

Posted by chika at 09:22 PM
April 06, 2003
戦うCEO

HPの先週の株主総会で、Poison Pillの実施には株主の承認が必要という決議が出たのに加えて、Executiveに年収の2.99倍以上の退職金を出す場合も株主の承認がいる、ということが決まった。(Poison Pillは、買収されそうになったときに、株をどっと発行して、買収を難しくする)

Compaq買収では、boardを後ろにつけたCEOのCarly Fiorina側に株主は付いたわけだが、「Compaqの買収を許したからといって、今後他から買収される恐れなく安穏と経営されては困るよ」「HP建て直しが上手くいかなかったら、莫大な退職金はなしだよ」と株主に釘を刺されたことになる。

HPといえば、Carly FiorinaとCompaq買収に関するproxy battleについて書かれたPerfect Enoughを読んだ。きっとそうだとは思っていたが、やっぱりCarly Fiorinaというのは凄い人である。

HP boardのDick Hackbornは、マイクロソフトが独禁法で攻められているころ、MSのboard meetingに出席してBill Gatesが泣いたの見ている。:(179p)

Bill Gates burst into tears, overcome with frustration about government antitrust investigations that were hobbling his company and vilifying Gates himself. "The whole thing is crashing in on me," Gates said at the time. "It's all crusing in."

そのHackbornをして、FiorinaはCEOの中でもまれにみるタフな人間だと言わしめている。

Fiorina faced an even more ferocious assault on her legitimacy. She withstood everything her opponents could throw at her. "I've seen very few CEOs capable of doing that" Hackborn said. "She's one of them."

うーむ。Bill Gatesより強いとはもはや超人であるな。

Fiorinaの形勢が特に悪かった頃、そのCEOの座を保つための奮闘ぶりを見て、多くの男性のCEOが、「明日はわが身」とFiorinaに肩入れしたという話もでてくる。AOLのSteve Case, CitigroupのSandy Weillなどからemailや電話での激励が届き、AmazonのBezosはこんなお茶目な電話をかけてきたらしい。(164p)

Jeff Bezos....called in a giggly mood to say,"I just thought you needed a hug. Consider this a telephony hug!"

アメリカのCEOというのは大変な職業なんだなぁ・・・・。

Posted by chika at 10:14 PM
April 04, 2003
Linksys vs. Krispy Kreme Donuts

先月CiscoがLinksysを買ったが、その価格はトホホなものであった。売上げ$429Mで買収価格が$500Mということだから、価格対売上げ(price/sales ratio,P/S)はたったの1.2倍である。

一方ローテクのどん詰まりと言っても良い、ドーナツ屋のKrispy KremeのP/Sは3.9だ。

Krispy Kremeのドーナツは確かにおいしい。ベルトコンベアで動く自動ドーナツ製造ラインが、ガラス越しに見えるようになっている店内も楽しい。Krispy Kremeは、ハワイの親戚にお土産で買っていってあげると喜ばれる。(ハワイにはないのだ)何箱も買ってサンフランシスコからホノルル行きの飛行機に乗ってる人を見たこともある。しかし、一応ハイテクなネットワーク機器が、たとえ家庭用とは言え、ドーナツより(企業)価値(の対売上げ比)が低いとは・・・・。

もう少し詳しく見てみると、Krispyのセールスは年度で見れば去年まで3年間毎年30%くらいで延びているが、直近の3つの四半期はほぼフラットで、gross margin率は20%くらいだ。(finance.yahoo.comから)

対して、LinksysはBusiness20の記事によれば

Linksys has $429 million in annual sales and a 24 percent sales growth rate. Linksys also commands a 39 percent market share for home and small-business networking equipment, a segment that may be worth $7.5 billion a year by 2006....Linksys's margins are 35 percent

ということで、成長率、マージンともKrispy Kremeと同等といってよいだろう。もしKrispy Kremeをcomparableとして利用、Linksysの企業価値を出したら$429M×3.9=$1.7Bくらいに跳ね上がるわけだ。

ちなみにCiscoのP/Sは5.0となっている。(Ciscoのgross margin率は70%と異様に高くLinksysの倍はあるせいもあるが)それでも、2000年のピーク時に比べてCiscoの株価は6分の1位だから、「Ciscoの株$500M分は実はもっともっと価値がある」とLinksys側も判断して、$500M分で落ち着いたたということもあるかもしれないが、P/S=1.2はやっぱりカナシイ。

しかし、MSもネットワーク機能をOSに組み込んでいくなど、家庭用ネットワーク機器はどんどんコモディティ化が進んでいくわけで、その将来はドーナッツ屋にも及ばないということでしょうか。

Posted by chika at 10:45 PM
April 03, 2003
Al Jazeera.net

Al Jazeeraの英語サイトが復活した

Wall Street Journalの記事(有料です・・・あしからず)のシャットダウンの経緯はこんな感じだ。

Hackers struck the Middle Eastern broadcaster's Web site on March 25, a day after the launch of the English site. The attack began as a "denial of service" attack -- essentially an onslaught of requests that overwhelm a server. In a separate incident on March 27, a hacker claiming to belong to the "Freedom Cyber Force Militia" redirected traffic aimed for al-Jazeera's site to a page displaying an American flag with the words "Let Freedom Ring" and "God Bless Our Troops."

サイトに対して莫大にリクエストを出すことでダウンさせるDOSやら、アメリカ国旗が翻るサイトへのredirectといったハッカー攻撃を受けたというわけで、昨今話題のITセキュリティがまたも注目を浴びたことになる。

Al Jazeeraサイト以外でも、中東の放送を英語化するWorldLink TVというNPOがサンフランシスコにあって、サイトからは様々な中東諸国の放送が英語訳つきでストリームで見ることができる。放送元は、Morocco, Egypt, Israel, The Palestinian Authority, Iraq, Iranなどもろもろだ。

こうしたサイトは本当に氷山の一角で、インターネットにアクセスできて、しかも英語を厭わなければ、莫大な情報を入手することができる。リアルタイムで戦争を両側の立場から見ることまでできてしまう時代になった。「戦争がエンターテイメント化して、Weather ChannelならぬWar Channelができる」という恐ろしい予言をするTVアンカーパーソンもいるくらいだ。それは気の滅入る予想だが、情報があふれることで戦争の悲惨さ、不条理さが広く理解されるのは歴史的に見ればプラスだろう。第二次世界大戦中の新聞なんかを見ると、自国にとってよいニュースしか伝えない記事の羅列に眩暈がしたものだが、これからはそんなことはできなくなった。少なくとも英語では。

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今回の戦争で話題になっているのは、テレビや新聞を通じて、戦況がリアルタイムでわかること。進軍する米軍に同行した記者からの情報だけでなく、イラク側からも情報発信がある。米国側の記者によって書かれた記事も、決してアメリカ礼賛なものばかりではない。全国でも特にリベラルなカリフォルニアベイエリア、ということもあるがむしろ、イラク人にとっていかに悲惨な戦争か、というところに焦点があたった記事が多いように思われる。

例えば、昨日のSan Jose Mercury Newsには、イラク人の家族がsuicide bomberと間違えられて銃撃され、17人中11人死亡という記事が載っていた。

米軍が爆撃と共に投下した「Be Safe, Stay Put」というアラビア語のビラの「Be Safe」のところだけを受けて、「つまり爆撃のあるところから逃れて米軍側に移動しろということ」と理解した家族親戚17人が、1台の30年前のLand Roverに乗って検問に近づいたところで、銃撃された。

Hassan's father, in his 60s, wore his best clothes for the trip: a pinstriped suit.``To look American,''

と、一家がいかに生存への一縷の望みを抱いて米軍側に行こうとしたかを語り、さらに3人の子供を目の前で失った母親の言葉へと続く。
``I saw the heads of my two little girls come off,'' Hassan's wife, Lamea, 36, recalled numbly. She repeated herself in a flat, even voice: ``My girls -- I watched their heads come off their bodies. My son is dead.''

この記事は、この一家のうち生き残ったメンバーが収容された病院で治療を受ける、他の一般イラク人の言葉で締めくくられる。

``We had hope,'' he said. ``But then you Americans came to bring us democracy and our hope ended.''

Lamea is nine months pregnant.``It would be better not to have the baby,'' she said. ``Our lives are over.''

一方、すでに54名の米国兵士が死亡している。Bay AreaはBushも共和党も嫌いという人が多く、サンフランシスコの反戦デモでは2000人以上が逮捕されるという土地柄だが、それでも「自国の同胞が命を懸けて戦っているのに戦争反対とは言えない」というのが私の話すアメリカ人のほとんどのコメントだ。そうした世論の中で、戦争の無常観を伝える記事にはとても重みがある。

もし日本が派兵をして、日本人の兵士が何十人も死んだとして、それでもこうした記事を書ける新聞は日本にはあるかな、とちょっと思った。

Posted by chika at 11:45 PM
April 02, 2003
嘘のつき方

私が関わっているJTPAという団体で、4月1日号ニュースレターと称して、全て大嘘のエープリルフールメールを出した。ボランティアでお手伝いいただいている編集メンバー数名と共にいつにない気合を入れ、2ヶ月近くかけて準備、JTPAの持つ約600名ほどが登録したリストに出した。うそ臭いなぁ、すぐばれそうだなぁ、でもと思いつつ出したのだが、真に受けて返事を下さった方がいて、一同よろこび。

一応気合を入れて嘘を書いた。例えば私が書いたものだと「天才になる方法」のセミナー。「Dr. Ikustosu Iodihが開発した天才になる方法で、天才が集まるといわれるシリコンバレーで生き残ろう」という主題は、ニュースレター編集長であるTさんが発案。それを元に、私が肉付けをしたのだが、気合を入れたポイントは「固有名詞・データをやたらに引用する」こと。

講演者のDrが書いた本は「The Promise of Sleep, A Pioneer in Sleep Medicine Explores the Vital Connection Between Genius and a Good Night's Sleep(邦題「夢のような天才」)」 (ちなみに、英語のほうの本は実在。筆者はスタンフォードの教授)

研究過程では、「気圧が睡眠時の脳に及ぼす影響を研究するためにエベレストで臨床実験」(これも実在の研究

Drのタイトルは「Stanford大学のThe School of Sleep Medicineの学長」かつ「同大学付属のLucile Packard Children's Hospitalで小児神経科医」どちらも、実在の組織。

しかし、嘘っぽいところを残そう、と
1.Dr.の名前は、逆から読むとヒドイウソツキ
2.開催日は実在しない4月31日
3.「脳の非連続な活性化による低血糖症を避けるため」と称して、「See's Candies: Milk Chocolate Nuts & Chews 1lb set」を持参すること、というわけのわからない指示
などを書いたんですけど、そんな細かいところまで読まないかな、やっぱり。ということで、1日で7名の人がセミナー参加を申し込んでくれました。パチパチパチ。申込者にApril Fool号だと告げると、「天才になりたかったので、うっかりだまされてしまった」というコメントが数件。私も天才になりたいです。

これ以外では、「レイオフ社員搬送コンテナ」というのも私が書いた。これはレイオフされた社員を入れて、席から社外に送り出すために開発されたコンテナという触れ込みで、
「高さ5フィート、幅・奥行きが4フィートほどのボックスで、下部にはローラーが付いている。内部には、一人用のいすが付いており、レイオフされた社員が、私物を持ってこのいすに座るとドアが閉まって、完全に外部からは遮断されるようになっている。ボックスは強化プラスチックを主な素材とするため非常に軽量で、警備員一人で軽々と押すことが可能。」こちらも数値の多用を心がけ。他の部分には固有名詞も散りばめてある。

人気だったのは「北朝鮮、シリコンバレーにベンチャーキャピタル設立」という記事。一部を抜粋すると
「偉大なる領導者金正日総書記閣下は、インターネットを通じ、『勤労大衆の創造的労働と闘争によって社会の全ての物質的富が創造され、社会的変革と進歩が遂げられる。』という主体思想の基本理念がグローバルに実現されると考えている。当社は総書記閣下のご聖断により、インターネット関連のテクノロジーやサービスに投資を行うファンドとして設立された。」これは、MさんSさんの力作。Mさんいわく「自分でもアホかと思うほど一生懸命主体思想について研究してしまった」そうだが、そのアホな努力が報われ、このネタに関してはマスコミ関係者二名から情報ソースの問い合わせがありました。

「JVSVNが「シリコンバレー」の商標のライセンス販売に乗り出す」
JCSVNは著名な団体。ライセンス販売プロモーション用に「スティーブ・ジョブズ氏と、オラクルのラリー・エリソンCEOを使った英語と中国語のポスターを3000枚作製する予定」という締め。これは本職のジャーナリストのKさんに書いていただいた。あまりにさらっと書いてあるので、多くの人が「これは信じた」というコメント。(これがメールの冒頭にあった)

「ハチドリの生体内に常温超伝導物質を発見!」ハチドリが空中に浮いているのは体内に常温超電導物質があるから、というもの。エンジニアのMさんの力のこもった作品。いわく
「ホバリング時の翼の回転数と翼の大きさから計算される浮揚力と、体の各部所の密度から計算した体重に矛盾があることが判明。通常の重力秤の値も、この密度計算の体重に一致しなかった事から、体の各部を詳しく分析、胃から腸にかけた部分にこの超伝導物質が広く分布」さらに「磁力を通さない超伝導物質であること示すマイスナー効果が正式に確認」とか、真剣です。

「Sun MicrosystemsとNordstromが合併」は「「衣料業界のAmazon.com」を目指すNordstromは、伸び悩むSunとM&A;することが、大規模なIT化コストを最小限にする方法だと気づき」合併を決意、「Nordstromの内部では、Sunとの合併が、洗練されたファッション・ビジネスの雄であるNordstromのイメージを壊すのではないかという懸念」があるので、「Calvin Klein」をリーダーとしたタスクフォースを結成して「Sunのイメージ・チェンジを3年がかりで行う予定」。ということで、編集長Tさんの作である。
これにも、「SunとNordstromが合併とは驚いた」というコメントが寄せられてウレシイ。

さらに読んでいくと、最後のほうに編集部からのお知らせと称して
「現在、「幽体離脱体験者」「犬橇ファン」「自分を探して旅に出たい人」「世界征服を企んでいる人」「ラーメンは醤油に限るという人」などで集まる予定を立てています。」などという、摩訶不思議なことが書いてある。

このNewsletterを信じて下さった皆さんと、是非一度幽体離脱して犬橇ツアーを敢行したい!!

Posted by chika at 09:12 PM
MozartとMichael Jacksonと印税

問:MozartとMichael Jackson,の共通点は何でしょう?
答:父親の英才教育で、音楽の天才を開花させたこと。

先週末1984年に作られたAmadeusをDVDで見た。見ながら、少し前に放映されたMichael Jacksonのドキュメンタリーを思い出した。

Michael Jacksonのドキュメンタリーは今年頭に放映された。ダイアナ妃の独占インタビューで有名になったイギリスのMartin Bashirが数ヶ月に及ぶ密着取材と独占インタビューを行って製作したものだが、Michael Jacksonの異様なところが強調されていて、Michael Jacksonは抗議している。確かに番組自体は一方的なところがたくさんあって、Michael Jacksonが抗議したくなるのもわかるが、それを差し引いてもやっぱり「Michael Jacksonは人間として壊れてしまっている」と思わざるを得なかった。アンティーク屋で一日に1億円近い(もっとかも)買い物をしたり、子供たちに仮装用の仮面をつけて出歩いたり。今でも、世界中どこに行っても、周りはファンの絶叫。小さな子供の頃から、狂乱したファンにもみくちゃにされながらの生活がずっと、ずっと続いているのだそうだ。彼には「普通」の生活など想像も付かないことに違いない。

でもMichael Jacksonは天才だ。子供時代の歌・踊りも大したものだが、スリラーで一世を風靡した頃のステージの映像なんか超人的だ。どんなに激しく踊っても頭の高さが微動だにしない。上述のドキュメンタリーを評した記事でも「将来Bashirは忘れられても、Michael Jacksonの名曲は歴史に残る」というのがあったが、これは本当だろう。

Michael Jacksonは自らの才能で莫大な富を築いたわけだが、同じく子供の頃から天才児として名声を集めたMozartは、貧困のうちに35歳の短い人生を閉じている。録音録画技術・著作権・印税のなかった18世紀には、Mozartがどれほど優れた楽曲を作っても、それだけでは金持ちになれなかった。スポンサーがついて、金持ちに音楽を教えて始めてやっていけた。

「録音録画技術・著作権・印税」の3つは、artisticな才能をrewardするという意味で、大きな役割を果たした。技術もさることながら、「著作権」と「印税」という「ビジネスモデル」は非常に画期的だ。多くの人から薄く広く金を集めるシステムというのは、対象を広げることができればものすごく利益を生む。「著作権」と「印税」はその最たるもの。

Michael Jacksonの莫大な富が彼を幸せにしているかどうかは意見が分かれるところだろうが、Mozartのような歴史上屈指の才能が、後世に残る名作を600曲以上も作って、そこから全然利益を得られないシステムというのはやっぱりフェアじゃない、と思う。

現在、「著作権・印税」に関しては、テクノロジー側とハリウッドの戦いが続いており、Napsterもなくなってテクノロジー側は劣勢だ。

しかし、今以上に薄く、しかしより多くの人から課金できる仕組みがきちんと稼動すれば、現在とは異なる才能のrewardが可能になるはずだ。例えばプライバシーを守りながら、オンラインで作品を提供、それがviralに世界に広まるよういなるとか。そうなったら「昔はMichael Jacksonみたいに才能がある人でも、プライバシーを犠牲にしないと才能のrewardをしてもらえなかったんだって。そんなのフェアじゃないよね」といわれるようになるのだろうか。

Posted by chika at 12:28 AM