新しいサイトに引っ越しました。全過去エントリーも丸ごと移しました。
http://www.chikawatanabe.com
へどうぞ。

September 29, 2003
Bundling is the king

San Jose Mercury NewsのAdobe readies software upgradeはAdobeが自社ソフトをバンドルして、MicrosoftのOfficeのように販売することにした、という話。

いわく
Adobe plans to announce new versions of its Photoshop, Illustrator, InDesign and GoLive software, elements of its ``creative professional'' line of products. And for the first time, Adobe will showcase them as if they are one big bundled product.

ソフトウェアビジネスは上手にバンドルした人の勝ちである。これを理解することなくソフトウェアビジネスをすることがあってはならない究極のルールだ。

Adobeはウェブデザイン市場に弱い。自社のInDesignで業界トップQuarkXpressに対抗しようとしてきたが、今までは果たせず。そこで自社の人気製品とInDesignをバンドルすることでQuarkを駆逐しよう、というのが今回の作戦である。ヨーロッパでのトライアルでは、PhotoshopにバンドルされたInDesignを買った人の多くはQuarkからInDesignに乗り換えた、とAdobeは言う。

なぜバンドルしたもの勝ちなのか。

Officeの例で考えてみる。(わかってるよ、という方は飛ばしてください)
Aさん:ワードは1万円でも買うが、エクセルは5000円でしか買わない。エクセルのかわりに競合の1-2-3だったら1万円で買う。
Bさん:ワードには5000円しか出したくないが、競合の一太郎だったら1万円で買う。エクセルだったら1万円でも買う。

という2人がいたとする。Microsoftがワードとエクセルをバラバラに1万円で売ったとすると、Aさんはワードと1-2-3をそれぞれ1万円で買う。Bさんは一太郎とエクセルをそれぞれ1万円で買う。マイクロソフトの儲けは2万円である。そこで、Microsoftがワードとエクセルをバンドルして1万5千円で売ったとする。とAさんもBさんも「だったら」ということでバンドル製品を買い、1-2-3も一太郎も買わなくなる。すると、マイクロソフトの儲けは3万円で競合の儲けは0になる。そこでめでたくも恐ろしくもMicrosoftのモノポリーになるのである。

「そんなこと言い出したらなんだってバンドルした方の勝ちではないか」と思うかもしれないがそうではない。なぜなら
1)多くの製品には製造コストがかかる。通常、製造量を増やしていくと、規模の経済が働いて、大量生産のコストメリットが出るが、ある量まで達すると、管理コストをはじめとしたもろもろの無駄が多くなって、製造コストがかさみはじめる。あまりに大量に売れると、作るコストがかさんで、安く売ると、売っただけ損をすることにもなりかねず、「適切量」を売る競合にコスト構造で負けてしまう。

が、ソフトウェアは開発コストはもちろんかかるが、コピーするのはほとんど無料。

2)多くの製品では、所有コストもある。「車を買ったらトレーラーもプレゼント」といわれても、「そんなの置く場所がない」という人も多かろう。がソフトウェアはまぁ、メモリがちょっと食われる程度。CDに焼いてその辺においておいてもよい。

以上二つの特徴がソフトウェアにはあることが、「ソフトウェアはバンドルしたもん勝ち」を招いている。つまり「大きいことはいいことだ」ということになってしまう。(もちろん「ただでもいらない」というレベルのソフトではバンドルの効果はありません)

とはいうものの、ソフトウェアにはバンドルする製品をたくさん持つ大きなプレーヤーを不利にする(可能性のある)要因もある。

1)レイヤー・アーキテクチャの戦い:アプリケーション、ミドルウエア、OSなど各種のレイヤーのしのぎあい、さらにはサーバ側、クライアント側などネットワークのどこにインテリジェンスをおくのかといったアーキテクチャの戦いがあって、常に戦略地図が流動的

2)すばやいプレーヤーのイノベーション:ソフトウェアは知恵の産物。知恵を最大限に活用するのには小さな会社の方が効率がよい、となれば、図体が大きいこと事態がマイナス要因になる

ということで、「大きなプレーヤー」=絶対優位=モノポリー、という3段論法は成り立たないということで、Microsoftが未だに分割されずに残っているわけだ。

が、しかし。Adobeは今までなんでバンドルしなかったんだろう?それに、Adobe以外にも、「本当だったらバンドルしたら儲かりそうな製品群を持つ会社」というのがありそうだ。どなたか、思いついたら教えてください・・・・。

Posted by chika at 10:34 PM
September 27, 2003
Microsoft - Schwarzenegger - 宇宙人

Microsoftを批判したセキュリティのスペシャリストが、コンサルティング会社を首になった。
Microsoft critic dismissed by @Stake

批判の内容は別に目新しいものではなく「MicrosoftのようにモノポリーのITインフラ会社がいると、セキュリティの脆弱性が増す」という議論を繰り返したもので「CyberInsecurity: The Cost of Monopoly」というのが問題のレポート。首になったのは、@Stakeという、セキュリティの世界では結構名の知れたコンサルティング会社のCTO。Microsoftは@Stakeの重要顧客ゆえ首。

CTO氏もナイーブだが、セキュリティの世界の人たちは理想論に燃えるこういう人たちが多い。セキュリティに限らず技術に関してディープな人はナイーブなことが多いが、まだセキュリティはそういう技術にディープな人=Geekが扱う初期ステージにある、ということもあるかもしれない。あと、セキュリティは、プライバシーとか、国際関係とか、いろいろと政治・主義的なものも絡むということもある。

さて、言わずもがななことを口にして首になった人もいれば、突付かれる弱みが一杯あるのに、メディアコントロールでしのいでいる人もいる。カリフォルニア州知事候補、Schwarzeneggerだ。過去のいくつかの女性蔑視発言、乱交や薬物使用など、いろいろと問題はあるのだが、立候補してから、とんとその手の話がゴシップ紙で取り上げられない。ゴシップを扱うメディアとしては、日本では週刊誌だが、その代わりにアメリカではタブロイド新聞があるあけで、スーパーのレジのところにズラーっと並んでいる。今だったら、時の人Schwarzeneggerをボロクソに叩く記事が満載でもおかしくないのだが、どれもこれも賞賛ばかり。その理由は・・・・
TABLOIDS STARRY-EYED FOR SCHWARZENEGGERをご覧あれ。Schwarzeneggerのビジネスパートナーがメディアに顔が利くので、しっかり圧力をかけている、という噂。

笑えるところではこんなのもある。
・・・one American Media tabloid, the Weekly World News, this week ran an ``exclusive'' about a politically savvy space alien throwing his otherworldly support behind Schwarzenegger. Under the screaming headline ``Alien backs Arnold for governor!'' the extraterrestrial not only lauds the actor, but vows to help amend the U.S. Constitution so the Austrian-born candidate can someday run for president.

タブロイド紙と言うのはもう滅茶苦茶なのが多いのだが、上の記事の出元のWeekly World Newsは宇宙人や魔法使い(!)などがネタの多くを占めるという、特に滅茶苦茶度が高いもの。そのWeekly World Newsによれば「エイリアンがSchwarzeneggerをバックアップ」している上、同じエイリアンたちが「米国憲法を改正して、オーストリア生まれのSchwarzeneggerが大統領に」とまでたくらんでいるんだそうだ。(外国生まれだと大統領にはなれない)恐るべしエイリアン。

それにしてもこの新聞、ヘッドラインを見ても「魔女が世界制覇の陰謀」「ブッシュの丸秘計画:月侵略」とかものすごい。人生相談は「鏡で自分を見ると、右肩の上に悪魔がいるんですがどうしたらいいでしょう」という質問に「それは死後の世界で苦しむ悪霊がパラレルワールドから時空の破れを通じて見え隠れしているもの。でも心配無用、あなたの守護霊に報告しておきました」てな答えだったり。

しかし、こんなものを読んでSchewarzeneggerに投票する人がいるんだろうか・・・結構いそうな気もする。あな恐ろしや。

Posted by chika at 10:45 PM
September 25, 2003
イースター (RedEnvelope & Red Herring)

昨日24日水曜日にSan FranciscoのRedEnvelopeが上場した。RedEnvolopeは高級ギフトのオンラインショップ。そして今日25日にはRed Herringのオンライン版が復活。ECommerceの復活については何度か書いてきたが、その付随現象とでもいいましょうか。「復活祭」ということでイースターというタイトルにしてみました。

RedEnvelopeはこの6月までの3ヶ月の売上げが1770万ドルということだから、まだ年商1億ドルに届かない。しかも赤字。Googleなどの大規模上場が始まって錦鯉の池に紛れ込んだ金魚のようにかすんでしまわないよう、今のうちにGo!ということなのか・・・・ホンマに上場して大丈夫かね、という感じではあるが、健闘を祈る。1株14ドルで上場して、今after hours marketで14.51ドルだから、ちょっぴりだけ値上がりはしている。危なっかしい感じだが。

Red Envelopeは一般投資家もIPO株を購入できる、OpenIPOというプロセスを利用。詳しくはSan Jose MercuryのOpening up the IPO to smaller investorsへ。IPOというと、ある会社がどっと通常の市場に株を放出するかと思いきやそうではない。underwriterである投資銀行が、あちこちの機関投資家を回って、「こんな会社ありまっせ。お宅、いくらで何株くらいだったら買いますか」と聞いて回り、その感触を元に価格を設定して、割り当て販売するのだ。(この「聞いて回る」ツアーをRoad Showという。ちなみに、新作映画上映という意味でRoad Showという言葉を使っても、アメリカでは通じませんのであしからず)で、その機関投資家(年金ファンドとか、信託ファンドとか)は、一旦IPOする会社から直接株を買い、そのあとで株を市場に出す。こういうプロセスだから、一般人はIPO株を買うことは普通はできない。

バブル期には、このプロセスで悪人が暗躍した。まず投資銀行は、ごひいき先の機関投資家に優先的にIPO株を割り当てる。で、IPO価格をあえて低く設定する。そうすると、IPO後株価は急騰する。ごひいき先はここぞとばかり株を売り払って(flipする、という)、あっという間に巨万の利益を得る。でその利益の一部を手数料など様々な形で投資銀行に還元する。たくさん還元すると、次のIPOでまたたくさん割り当ててもらえる、という仕組みになっていた。OpenIPOを考案したBill Hambrecht氏いわく、flipで得られた利益の30%は投資銀行に還元されていたそうだ。

投資銀行側は低めに値付けするインセンティブが働くわけで、そうすると上場した企業の取り分は少なくなる。(市場に出てから第3者間で行われる取引のあがりは上場企業には入ってこないので)ひどい話だ。

「正直者が馬鹿を見る」という世界だったんである。ま、とはいうものの、結局最後には大事件になり、何人もの人が検挙され、粛清がかかったが・・・。

こうした不透明なIPOプロセスの代わりに、オンラインオークションでIPO株を一般投資家・機関投資家双方に平等な条件で売ろう、というのがOpenIPO。考案したBill Hambrechtが設立したブティック投資銀行WR Hambrechtの登録商標。

GoogleもOpenIPOを検討したが、それはもしかして一般の大手投資銀行に対して、IPOのunderwriting feeを値切るための手段かも、と記事は続く。IPOのunderwriting feeは通常7%。7千万ドル位が「大きいIPO」と「小さいIPO」の境目なので、「ちょっと大きめ」で1億ドルをIPOで集めると投資銀行の取り分は700万ドルという、莫大な額になるので、1%下げるだけでも意味がある。

一方、Red Herring to resurrect Web siteによれば、結局Red Herringの商標はDasarというフランスの会社が買って、そこがエディターを雇ってこれまで再開の準備を進めていたらしい。一時期200万ドルでも買い手がつかない、といわれていたから、もっと安く買ったのだろうか。とすれば、相当なお買い得だったのではないか。これからどれだけ事業を伸ばせるかにかかってはいるが。フランス人のお手並み拝見、というところか。

というわけで、OpenIPOという目新しい手段を使って、ECommmerce企業が上場、Red Herringは復活という、幸先のいい感じのする2日間でありました。

Posted by chika at 09:01 PM
September 24, 2003
不景気と独立して働くこと

Business WeekのU.S.: Consumers Will Keep Carrying the Ball

景気の様々な指標は回復してきているのに、8月の雇用状況が悪化したことについて。
いわく”After all, consumers can't possibly keep leading this recovery without a pickup in job growth, can they? ”

その一つの理由として独立・起業する人が増えている、ということが挙げられている。

・・・although the Labor Dept.'s survey of businesses shows continued layoffs, its survey of 60,000 households shows an increase of 868,000 jobs over the past year・・・558,000 jobs reflected people listing themselves as self-employed.

企業側は首を切っているのに、働く側の仕事は増えていて、その理由の一つは、実は55万8千人が独立事業者(というのか、要は誰かの会社で働いているのではなく、自分が自分のボスということ)だから、となっている。

It might be easy to dismiss the rise in self-employment as merely a way for some to deny their unemployed status. But the trend in proprietors' income -- earnings derived mostly from privately owned businesses -- supports the idea that this jobless recovery is pushing more people to become successful entrepreneurs. Nonfarm proprietors' income was up 9.1% in the year ended in July, a pace equal to the gains posted in the 1990s boom. These earnings, while 10% of all personal income, have accounted for nearly a quarter of the increase in overall income over the past year. Those gains partly explain why consumer demand is strong even while businesses are reluctant to hire.

最初の一文をちょっと解説すると、最近半年とか1年とか、長期にわたって仕事のない人が増えていて、プロジェクト単位で仕事を請け負ってしのいでいることも多い。で、さらには、何のプロジェクトもこなしていなくても、「職探し中」というにはあまりに長い失業は聞こえが悪いので、「失業中」という代わりに「consultant」という人もたくさんいる。

もちろん、本職のキャリアとしてコンサルタントをしている人たちもいる。私もそうなのだが、この間もそういう人たちと食事をしながら、「Consultingをしているというと、職探し中かと思われるのが困りもの。」という話題になった。私は自己紹介をするときは「I'm a consultant」といわずに、「I own a consulting company」とか言ったりするようにしたりと、いらぬ気苦労が必要な昨今である。

もとい、景気の悪さで、起業家が増えている、というのが記事の内容。私の周りを見ても、転職活動に見切りをつけて、自分の会社を作った、という人がたくさんいる。そういう人の中には、景気が良くなったらまた勤めに出る人もいるだろうが、このまま独立してやっていくという人生を選ぶ人もいるだろう。

「企業」の形が変わり、人々の意識が変わる中で、勤労形態も今後変わっていくことは間違いないが、その中で「独立して働く」という生き方を選ぶ人も増えるのではないか。

Free Agent Nation: The Future of Working for Yourselfという本もあったりする。アメリカで独立して働く人たちについてフィールドワーク的に調べた本だ。ちなみに、狭義には「独立して働く人」はentrepreneurとは言わない。あくまで「狭義には」だが。雇用を生み出すのがentrepreneur。自分でフリーランス的にやっていくのは気持ち的にはentrepreneurialだが、entrepreneurではない、ということ。でも、それはそれで中々味のある働き方なのである。組織でやっていくことが必ずしも効率的でない仕事もたくさんある。

ボスもいなきゃ、部下もいない、働く相手はみんなパートナーという形態を好ましいと思う人たちにはうってつけの働き方だ。

Posted by chika at 10:20 PM
September 23, 2003
Microsoftの帝王学

Business2.0のBaby Billsは次世代の卓越したリーダーがMicrosoftの社内で育っているという話。タイトルは、アメリカの地域電話会社がBaby Bellsと呼ばれるのにもじって。

取り上げられている人材は
Eric Rudder 36才/Microsoft勤続14年
Chris Jones 34/12
J.Allard 34/12
Yusuf Mehdi 37/12
Steve Sinofsky 38/14
Martin Taylor 33/11
Tami Reller 39/19(Microsoftに買収されたGreat Plainsの生え抜き)

Eric RudderがSenior Vice President、Martin TaylorがStrategistというのを除くと、他はCorporate VPで、その上にGroup VPがいて、その上はCEOのSteve Ballmerである。つまり偉いんである。Microsoftといっても、イマイチ大企業という実感が薄い人もいるかもしれないが、営業利益が132億ドル、実に1.5兆円。ドコモの営業利益が1兆円、トヨタで1.3兆円といえば、どれくらいすごいかわかるだろうか。

そういう大企業の部長、本部長クラスが30代。といっても、日本も80年代初頭ごろまではそうだったんじゃないか。今となっては信じがたいが、その頃の日本は、大企業でも社員平均年齢20代後半なんていう会社がざらだったんである。

そういえば、「YASHA」というタイトルの吉田秋生の少女マンガがあった。遺伝子操作によって生まれた天才の双子が、老人を集中的に殺すウィルスをばら撒くという陰謀をめぐって戦う、というものだが、「ある年代以上の人がどうしても会社に来たくなくなるウィルス」を作ってばら撒いたら何が起こるだろうか・・・。

もとい。

ハイテク企業としてMicrosoftが異色な点は、生え抜きの人材が多いこと。人事に力点を置き、傑出した人材を生み出すので知られるGE並みのプログラムを実施して次世代リーダーを育成しているんだそうだ。もちろんずっと勝ち続けている企業だから辞めるインセンティブが低いということもあるが、ワシントン州Redmontにあるというのも異質。Silicon Valleyに本社を置かないことで、半ば人材の真空隔離状態を実現、社員流動を抑えている。もちろんその代わりに周りの会社から人材を引き抜きにくいのも真実ではあるが。会社所在地は戦略的に考えよう、というのがtake awayか。

Posted by chika at 09:31 PM
September 22, 2003
MBAのトホホ

Business Week9月22日号の記事、What's an MBA really worth?。オンラインでは有料だが、このリンクのところに近々記事に関してのオンラインchatの書き起こし原稿が無償でアップされるらしい。(chat自体は9月15日に済んでいるが、こちらもまだ。)

昨日紙媒体のほうの記事を読んでクラーイ気持ちになった。92年にMBAを取得した人の平均年収、というのを見たからだ。Stanfordの場合、サラリーが26万5千ドル、ボーナスが30万ドルとなっている。合計で56万ドルだ。トップ30校全部の平均でも、それぞれ16万8千ドル、27万3千ドルで合計44万ドル。Harvardで21万5千ドル、63万2千ドルで85万ドル、Georgetownで13万7千ドル、57万5千ドルで71万ドルであります。

もちろん、データの信頼度に関してはいろいろと突付けるところがあって、トップ30校の卒業生トータル5700人中、4800人にコンタクトして、うち回答したのは31%だけ。人生イマイチな人は回答を避ける、ということもあろうし、嘘をついてるヤツだっているだろう。それに平均の求め方は、この手の統計ではより有効と思われるmedian(中央値:回答結果を大きいほうから全部並べて、真ん中の数字を取る)ではなく、average(全部足して、人数で割っただけ)だ。これだと、一部の人が莫大に稼いでいると、全体としてひどく高いほうに偏った結果になる。例えば、Georgetownの例では、一人がボーナス1100万ドルで、46人分の合計ボーナスの40%以上をたたき出している。あと、92年卒というのがバブルのいい時期にいい場所にいた、ということもある。例えば、私の友人で、30半ばで引退してゴルフ三昧という枯れた暮らしをしている人も、Harvard MBAの92年卒だ。

とはいうものの、やっぱり平均は平均。

92年卒といえば卒業して10年目をちょっと過ぎたあたりである。10年目といえばアメリカの大学はどこもreunionで世界から卒業生が集まる。私は5年目のreunionにおととし行ったのだが、「人生イマイチで行きたくないから行かない」と参加しなかったクラスメートも結構いた。(別に仕事だけではなく、異性関係、結婚関係、子供関係など、イマイチの理由はさまざまであったが。仕事がイマイチでも、それ以外でとってもシアワセなことがあって本人が納得できていればそれでOKなのだが・・・・。)

昨日の夜、このBusiness Weekの記事を読んで、「そうかー10年目のreunionに堂々と参加するには、年収56万ドルか、それに見合うシアワセを構築していないといけないんだな。うちは夫婦で卒業生だから二人合わせて112万ドル、1億3千万円かぁ。。。それでまだ『平均』だもんなぁ。ハードル高いなぁ・・・」と思ってしまったのであった。

とはいうものの今朝になって「うーむ、私は根が暗い」と思い直した。
1)へへん、こんな統計嘘だねと笑い飛ばす
2)まぁ、平均くらいの能力はあるはずだから、淡々とやってれば平均くらいは楽勝、と楽天的に捕らえる
などなど、様々な考え方があるはずで、10年めのreunionに堂々といけるか、などというセコイことでため息ついてしまうのは、あまりに暗い。(暗いのも、それはそれで努力の源泉でもあるのだが・・・)

ちなみに、記事は、「MBAは役に立つ」という論調。集計結果の一部を紹介すると、平均年齢38歳ちょっと、平均部下数93人、一番多い勤め先は投資銀行で22%。89%がもう一度選択するとしてもbusiness schoolに行くと言い、80%はもう一度同じ学校を選ぶとのことです。

Posted by chika at 10:56 PM
September 18, 2003
日本

ご無沙汰しました。日本出張中なのであります。明日帰りますが。短期間、かつ東京以外で1日半ということで、あまり人にも会わず。

1年以上ぶりの日本である。久しぶりに来ての感想は、「人間を健康にする日本というシステム」。

いやー。歩いた歩いた。。。PCの入った重いかばんで、ヒールのある靴で駅の階段やら地下街やらを歩くと5分10分でもよい運動だ。当たり前だが。歩く&電車コンビネーションの方がタクシーよりも早い。これも当たり前だが。超健康的である。

しかも、羽田から国内線に乗ったのだが、チェックインの際にちょっとした変更をしようとしたところ、担当の人が「確認してまいります」と消滅。10分たっても20分たっても帰ってこない。やがて離陸10分前を切り、掲示板から私の出る便の表示が消える。それからさらに2-3分して担当の方が戻ってきた。が、そこで「走りましょう!」といわれ、ゲートまで走ることに。しかも全速力です、全速力。重いカバンとヒールでこちらはハンディキャップ36という感じだ。ゲートにつくころには吐き気がして、心臓が痛いという情けないことに。

体が鍛わってしまう日本、であった。

一方、せっかく久しぶりの日本なので当地で最近はやっているらしき本を読もうと霧の桐野夏生の「グロテスク」という本を読んだ。本当にグロテスクであった。家柄、容姿、金持ちかどうかで如実にランキングが決まる私立高校(Q高校、と書いてあるが、モデルは明らかに慶応だ)に通った4人の女の子が、社会から足を踏み外していく様が書いてある。一人は総合職として大企業に入り、その中で挫折、娼婦になる。(これは街娼をして殺された東電OLがモデル)ほかの3人の人生も大差なく悲惨。うち2人は娼婦。

ちょっと前には、田口ランディの「コンセント」という本もあったが、こちらの主人公も女性で、最後に孤独に苦しむ現代人を癒すシャーマンのような存在になる。というのは比ゆで、実業のほうはこちらも娼婦。

「神のいない国の孤独」ということなのか。人間は何かと繋がっていると信じられることが、生きていくために必要なのだろう。宗教は、人を神と繋がっていると信じさせる究極のシステムであるが、日本人のほとんどが無宗教である。

一方で、娼婦とは、究極的に人と繋がることであり、タブーを自分の中に飲み込むことで、現世的問題を突き抜けた聖域に達するという暗示もある。カーマスートラの国インドでは、女装で共同生活をするヒジュラというアウト・カーストがあるが、その多くは男娼でもあり、しかもアウトカーストとして蔑まれつつ、宗教儀式にかかわることもあって畏敬されていると聞く。タブーと宗教は表裏一体なんである。

日本は人口密度が高い。いつでも人と袖振り合わせて生活している。しかも、多くの価値観を共有している。(いやいや、最近は日本も、、、と言う人も多かろうが、たとえばアメリカとの比較で言えば、まだまだ言わなくても通じること暗黙の共有概念がたくさんあるはずだ)それだけ多くの人と物理的にも心理的にも近しくあるのに孤独、という救いのなさが現代の日本の不幸なのではないか。そういう不幸が、グロテスクとコンセントというベストセラーが生まれる背景にとぐろを巻いている気がする。

ちなみに、日本に住んでいて、そういう不幸に押しつぶされそう、という人はカリフォルニアで暮らしてみるとよいかも。人口密度が低いから楽。「周囲の人々が、物理的にも心理的にも遠くにあるから孤独」っていうのは、論理にねじれがなくて健康的なのである。

ということで日本版、体の健康と心の健康でした。

Posted by chika at 12:35 AM
September 11, 2003
Bill JoyとLarry Ellison

Bill JoyがSunを去った。
CNetのCo-founder Joy to leave Sun
とてもいいことだと思う。上が支えるとろくなことは起こらない。Bill JoyはWiredにWhy the future doesn't need usという「技術の進歩は人類の脅威」といった内容の記事を書いてちょっとした論争を巻き起こしたが、個人的にはこれはBill Joyが枯れてきただけ、と思っている。自分が関わる技術がethically badとと思うような人が重要な役割を占めていては、営利企業的には困ってしまう。やっぱり夢一杯・希望一杯の人がドライブしないと企業も枯れてきてしまう。

Larry Ellisonも"there will be no new architecture for computing for the next 1,000 years" "The computing industry is about to become boring."などと言っているが、これも単に彼が年取って飽きてきた、ということと睨んでいる。これは同じくCNetのCan Oracle survive Larry Ellison?からの抜粋だが、この記事は、Larry Ellisonみたいな滅茶苦茶なトップがいてはOracleの将来が思いやられる、という内容。

いわく
(Oracle's) senior management team is woefully depleted, with the loss over the past several years of Ray Lane, Gary Bloom, Robert Shaw, Randy Baker, Polly Sumner and many more. Not only is there no one at the top to challenge the often-mercurial Ellison, there is no clear successor to take over in an emergency.

これまで上手くいったのはLarry Ellisonの野生の勘。ここぞというときに大きな流れを読んで、重要な決断ができたので今に至ったが、年齢とともにそういう野生の勘というのはなくなってくる。代わりに判断力、統率力みたいなものを増していかないとならない。「年の功」というヤツである。しかし、Larry Ellisonはいまだに野生の勘で突っ走っている。果たしてOracleはいつまでそれを持ちこたえられるのか。

Larry Ellisonの野生の勘といえば、昔新日鉄の人に聞いたのだが、一時期新日鉄とOracleは合弁でOracle Japanを作ることになっていた。ところが、その調印式に出席するための飛行機の中で、突如Larry Ellisonの気が変わり、日本につくなり「やっぱりヤメタ」と話は御破算になったとのこと。「素晴らしく正しい決断だ」と新日鉄の知り合いは感心していたが。(突如断られた新日鉄は大変だっただろうが・・・・)

ちょっとblogでは書けないのだが、Larry Ellisonに関するとんでもない噂話は一杯ある。どれくらいすごいかというと、ローマの暴君Caligulaのコーポレート版とでも言う感じ。

Caligulaといえば、最近その邸宅が発掘された。CastorとPolluxという軍事の神様を祭る神殿を取り込んで作られており、まさに神をも恐れぬ異常なつくり。やはりCaligulaは誇大妄想的暴挙を繰り返したという噂は本当だったか、と注目されている、というのはSan Jose MercuryのStanford team's discovery sheds light on Caligulaです。

Posted by chika at 10:05 PM
September 09, 2003
Silicon Valleyの空洞化-続き

Silicon Valleyで職探し中の方からこんなメールを頂いた。

Silicon Valleyの空洞化はまさに感じていたことを言葉にしてもらった感じです。San Jose Mercury Newsも読みました。

Webで広告している電子通信関連の求人を見ればすぐわかりますが、「スーパーエンジニアを求む」としか読めません。エントリーレベル、ジュニアレベルを見つけることは困難です。したがってアメリカ人の新卒も相当苦労しているようです。

特にスタートアップはずば抜けた人しか雇いませんね。以前からそうでした。

スーパーエンジニアのマーケットは確かに存在します。これからも存在しつづけることでしょう。しかし問題はスーパーエンジニアになるまでのキャリア形成を行う土俵がアメリカに少なくなりつつあることです。

私の勤めていたシリコンバレーの大企業は製造が東南アジアに移管することで、真っ先にプロダクション関連の人が減りました。製造に携わるジョブマーケットはどんどん縮小していることはもう常識でしょう。ソフトの開発もすでに移管中です。ソフトの外注管理はまだしばらくアメリカにあるのかもしれません。ソフトの設計を習得するならインドです。しかしソフトの設計、プログラミングをしたことのない人間がソフトの外注管理などできるものでしょうか。

製品設計、開発も外に出て行っています。中国では生産だけでなく、設計も活発です。ソフトだけでなくハードも海外です。あちこちのソース(互いに関連なし)から聞いた情報もそれを裏付けています。

しかしアメリカはまったく空洞化してしまうことはありません。軍事関連のハイテク産業は外に出て行きません。新卒はそこでスキルを鍛え、やがてスタートアップなどの先鋭的なエンジニアリングに挑戦すればよいのでしょう。アメリカ国籍のない日本人にはこういうことはできません。

もしかしたら、インドや中国で就職し、エンジニアとしての技術を高め、その後アメリカで就職するのが今後のながれになるのではないでしょうか。現に私の友人(携帯電話のソフトエンジニア)はフランス、日本、アメリカ、日本、中国の順で職場を渡り歩いています。」

一方で、最近シリーズAのファンディングを受けたばかりで、まだ10人くらいのベンチャー2社の人たちが、異口同音に「良い人が雇えない」とぼやくのを聞いた。いずれも、Mobiusとか、MayfieldとかBessemerとか、メジャーどころのVCから投資を受けているにもかかわらず、である。どちらも「スーパーエンジニア」を探しているのだ。いわゆる「スターエンジニア」という人たちである。彼らいわく

1)ぴかぴかの人は引く手あまたであり
2)既に何度か成功している経験者は、ファウンダー並みのストックオプションでも与えなければ来てくれない
3)一方で、失業中の人は山のようにいるので、採用情報を出すと莫大に応募が来てしまうが、スターエンジニアの絶対数は限られているので、応募数が二倍になったからスターエンジニアの応募も二倍になるわけではない(一人は「Noise-to-Signal ratioが悪い」と表現していた)

雇用側、雇用される側、同じことを言っているわけだ。

エンジニアじゃなくても、かなりスターじゃないとなかなか仕事を見つけるのは難しい。例えばNeoterisという会社で知り合いがプロダクトマネージャを募集している。条件はこんな感じだ。

■Must have 3+ years of product marketing experience in the remote access, enterprise applications, security, or networking space and knowledge of emerging web infrastructure technologies.
■Must have managed 5+ releases through the entire lifecycle from definition to pricing, sales support, and deployment.
■Must have demonstrated successful experience managing product strategy for a similar company and/or in an emerging market.
■Must be able to excel in a fast pace, startup environment where action and initiative are prerequisites to survival.
■Excellent written, verbal and presentation skills.
■Strong technical and market knowledge of the networking and security technology spaces.
■Proven analytical and problem solving skills.
■Must have a BA/BS degree, MBA preferred.

初心者お断り、なんである。(ちなみにNeoterisは盛大に雇用中。同社のサイトにあれこれ乗っているし、加えて、な、な、なんとMountain Viewの映画館で採用広告まで出していた。バブル期はあきるほど採用広告が映画の前に流れたが、バブル崩壊後、ベンチャーでは初めてではないだろうか)

今日、Electronic ArtsでVP Technologyをしている橋本さんとランチをして、以前何度か私のblogにコメント頂いたShiroさんの話になった。Shiroさんは偶然私のblogを見つけていただいたのだ(と思う)が、もと橋本さんと一緒に働かれていたのである。・・というのは、以前橋本さんの話をblogに書いたときに判明した。Shiroさんはハワイ在住。橋本さんいわく、「ShiroにぜひともEAに来て欲しい、とラブコールを送っているのだが、なかなか来てもらえない。腕一本でどこでも引く手あまたの凄い人材なのに、、、」と残念がっていた。

やっぱりこういう風に前の職場の人に見込まれて引っ張ってもらえないと厳しいんだなぁ・・・・。

Posted by chika at 04:02 PM
September 08, 2003
エッセーの自動採点

For Student Essayists, an Automated Grader

エッセーをインプットすると、アーラ不思議、自動的に採点結果が出るというCriterionというソフトウェアの話。e-raterというエンジンで動く。

According to the Educational Testing Service, 104,000 students and 2,700 teachers are using Criterion in 535 schools, primarily in the United States; four-fifths are middle or high school students, and the remainder are at colleges or universities.

既に広く使われている。

To develop a model, e-rater must be trained on 450 to 500 essay responses scored by two professional readers based on a rigorous scoring guide.

まず、450-500件のエッセーをプロの読み手に読ませてスコアをつけさせる。で、それを機械に読み込ませると、ふむふむとその特徴を学んで、それをまねして他のエッセーも採点できるという仕組み。

"If the human scoring is inaccurate, e-rater will make an inaccurate judgment on the writer," said Marisa Farnum, the writing assessment specialist and product manager for Criterion at the testing service. "It's only as good as the human scoring it learns from."

元の人間の読み手がイマイチだと、それに基づいて作ったロジックもイマイチになるという当たり前のことが起こる。

For example, it tends to reward very long essays, an inherited bias from human graders who tend to look favorably on longer rather than shorter responses.

例えば、長いエッセーは中身のいかんに関わらずいい点になる傾向が強いと。しかし、それは人間の読み手には通常そういうバイアスがあるらしい。なんとなくわかる気がする。

For example, a high score almost always contains topically relevant vocabulary, a variety of sentence structures, and the use of cue terms like "in summary," for example, and "because" to organize an argument. By analyzing 50 of these features in a sampling of essays on a particular topic that were scored by human beings, the system can accurately predict how the same human readers would grade additional essays on the same topic.

具体的には、「高い得点のエッセーに頻出する単語」など50のポイントでスコアしているんだそうだ。in summaryとかbecauseとか書くといい点になるのだ。
*****
ひどいじゃないか、と思うかもしれないが、試験なんてこんなものだ。ほとんどの試験は、パズルかゲームだと思って攻略法を考えることで結構いい点がとれてしまう。例えば、幾何の問題で角度の問題が出たら、相当の確率で答えは30度だった。(でなければ60度)。それ以外の答えが出る問題を作るのが難しいということもあるだろうが、わからなかったらとにかく30と書いておけば間違いない。

GMATというビジネススクール受験用共通テストの、グラマーのテストなんかは究極のゲームであった。3択か4択で、似たような表現の文章からグラマーが間違っている文章を選ぶ、というものなのだが、「頻出する間違い」というのが10個ぐらいあってそれを覚えておけば7割がたできてしまう。例えば「being」が文章に出てきたら、まず間違い、とか。(becauseを使って書き換えてある文の方が好ましいらしい)「between A to B」というのもあった。(もちろん正解はbetween A and B)。困ったことに時々一つの選択肢のセットの中に間違いが二つあることもある。ところがよーく過去問を見てみると、「間違いの強弱関係」というものがあることがわかる。その強弱関係は固定的な順列になっているので、「間違いの順位表」を覚えておけば、それでOK。(beingがbetweenより強い、とか)「間違っているものは間違っているのだから、それに強いも弱いもない」と憤慨したりせず、「ふむふむ、こういうルールのゲームなのだな」と思って攻略する。それだけだ。

しかし、このプロセスは「どこにも正解がない問題をどうやって解くか」という実際の社会での問題には全く役に立たないことは明らか。役に立たないからこそ、ついつい一生懸命やってしまう、というオタク的側面もあるのだが・・・・。

Posted by chika at 09:57 PM
September 07, 2003
Antioch Church

家から車で5分ほどのところで"Antiochian Orthodox Church"なるものが、フードフェスティバルを行うというので行ってみた。Antiochとは何ものぞ、と思ったのだが、中世の戦争ゲームMediaval Total Warに入れ込んでいるダンナいわく、ゲームの地図によれば、イスラエルの北、ギリシャの東のほうにAntiochという国か街がある、とのこと。となれば、食べ物はシシカバブとかファラフェルか?と当たりをつけて行ってみたところ正解。

驚いたのは、集まっている人の多さである。ギリシャ人ともイラン人ともつかぬ濃い顔の人々が数百人は優にいる。(アジア人は我が家のみでありました。)感じとしては、日本の地元のお祭り。屋台が出て食べ物を売り、子供たちは別のコーナーでゲームをし、ステージがあってくじ引き抽選会(ハワイ旅行が当たるのだ)をしている。それにしても、Antioch正教会、なんていうマイナーそうなものにこんなに人が集まるとは、、、、。恐るべしシリコンバレー、である。

家に帰ってさらに調べてみると、Antiochは今のシリアあたりのようだ。ただし、おなじみのCIAの情報玉手箱World Fact Bookによればシリアは基本的にはイスラム教国家でキリスト教徒は10%しかいないらしい。それにもかかわらず、Antiochian Orthodox Christian Archdioceseのサイトによれば、アメリカ国内だけで150もの教会がある。

世の中知らないことがたくさんあるものだ。外国に住むというのは本当に奥が深いのである。

Posted by chika at 09:58 PM
September 05, 2003
恐怖する力?

梅田さんのblogに参照していただいたので、お返しにTrackbackしました。梅田さんのblogの中身は、

「仕事仲間の渡辺千賀が、そのBlogで、「Silicon Valleyの空洞化」という怖い話を書いている。彼女が参照している記事は同じくサンノゼマーキュリーニュースの「Some technology jobs head abroad -- and they may not be coming back」であるが、記事の原文よりも彼女のBlogのほうがうんと怖い。」

ということで、私の書いた下の文章が怖い表現らしい。
「グローバルに仕事が移転する時代では、ある時首を切られて、それ以降全く仕事がなくなってしまう、ということが十分起こり得る。

なんというか、海辺の絶壁を想像してしまう。水際ぎりぎりにぽっかり横穴が開いていて、その中で安穏と暮らしていると、だんだん潮が満ちてきて、海の水がじわじわと穴の中に入ってくる。今にまた潮が引いて、元通りの安穏とした暮らしに戻れるのではないかと思って耐えているが、ついに水は腰の辺りを超え、首あたりまで来る。どこかで決意して、荒海に泳ぎ出て、さらに上のほうにある穴によじ登った人だけが生き残ることができる。」

怖いですかね?私はいつもこんな感じの発想なのだが。そういえば、就職して3-4年たったところで、「全然スキルアップしていない」と深甚たる恐怖に襲われた。しかし、何をどうしてよいかわからずにいたところ、たまたまBoston - Palo Alto出張というのがあった。Bostonは滑走路が凍結していたが、Palo Altoはうららかな初夏の気候で、当時働いていた会社からスタンフォードのビジネススクールに留学中の人に会う機会もあった。彼はスニーカーをはいてTシャツにジーンズで登場した。その瞬間「私もスニーカーをはく暮らしに戻りたい」と強烈に思った。(当時はケバかったので、毎日ボディコンスーツにハイヒールだったのだ)

で、日本に帰って出社したら、机の上に「ビジネススクール派遣生応募要綱」なる人事からのお知らせがあって、見たらその日が締め切りだった。その場で適当に応募の理由を捏造して、人事に送ったところ、運良く選考を通って今日に至るのである。運がよかった、といえばそれまでだが、そもそも「このままではいけない」という恐怖を感じていたから、その場で決断できたのだろう・・・怖いと思うのも才能のうち、かな?

Posted by chika at 09:47 PM
PeopleSoftとM&A;

PeopleSoftがアナリスト向けの発表をして、ドラスティックな人員削減と、華々しい利益ゴールをぶち上げた。
CNet:PeopleSoft details layoff, product plans
San Jose Mercury:PeopleSoft to trim up to 1,000 jobs

もちろんOracleの敵対的買収対策である。アメリカの会社経営というのは緊張感がある。Oracleに買われるより、PeopleSoftとして存続した方が、ずっといい、ということを株主にアピールしようと必死なわけで、Conwayは「If there's ever been a better opportunity for a software company, I've never seen it」と。そこまで言うか。しかも、「なるべくがんばります」では誰も納得しないので、従来以上の数値目標を掲げざるを得ない。掲げた以上、そこに向かって走っていくしかない。

前にも書いたが、Oracleは競合であるPeopleSoftを叩き潰すためだけに買収をしようとしている。Larry Ellisonは、「一旦買収したらPeopleSoftの製品は全てつぶして、人も全員切り、顧客ベースだけ頂く」と公言しており、それを受けてPeopleSoftのCEOのConwayは「『お前の犬を10ドルで売ってくれ。すぐ撃ち殺すから』といわれているようなものだ、誰が売るか」と応戦。(対してEllisonは、「Conwayと、Conwayの飼い犬が一緒にいて、どっちかを撃ち殺すとしたら、それは犬じゃないのは確かだ」などとさらに応戦。。。子供みたいだ。)

「Conwayは一度Oracleに身売り話相談に来たんだぜ」などとLarry Ellisonはインタビューで暴露してConwayを激昂させたりしているようだ。ちなみに、Larry Ellisonは突然Tom Siebel(Siebel Systemsの社長ですね)に電話して「うちのCRM部門のトップにならないか」と言ったこともあるという噂だ。この3人はみなOracleで直属の上司部下で働いた関係。

かようにOracle人脈(特にセールス出身者)はシリコンバレーのエンタープライズ・ソフトウェア業界を牛耳っているのだが、しかし、これはまたこの産業の弊害にもなっているのでは、という説がある。というのも、Oracleといえば、営業同士の競争が厳しいので有名。が、それゆえにOracleのセールス出身者は成功者としての強烈な自負心を持つのに加え、周囲からのrespectを集めている。そうした人たちが、「成功体験者」としてOracle流セールスプラクティスをシリコンバレー全域に広めた。おかげで、「エンタープライズソフトウェアのセールスといえば、攻撃的でうかうかしていると食われてしまう」という認識が客側にも根付いてしまい、セールス活動が闘争的になりがち、というのは知り合いの嘆き話。。。

余談だが、Larry Ellisonといえば、Charlie's Angelに出てくるサウナで殺されてしまう少々間抜けな役の男は、明らかにEllisonがモデル。大金持ちで、ハイテク企業の社長で、日本趣味、傲慢だけどちょっとギャグ、というもの。本もののEllisonは日本で女子大生と遊ぶのがお好きという噂もある。京都で芸者さんと遊ぶ会をセットしようとしたら、芸者より女子大生がいい、と言われたとか言われないとか・・・・・。噂は噂なので、鵜呑みにしないで下さいませね。

Posted by chika at 09:29 PM
September 04, 2003
車を売る

最近新しい車を買ったので、今日これまで乗っていた車を売った。売った相手はGoogleのScientist。2001年にスタンフォードでPhDを取ってGoogleに入社したんだそうだ。中国系イギリス人、というベイエリアらしいインターナショナルな人であった。彼が入社した当時のGoogleは200人くらいだったとのこと。前にBlogでも書いた熊的体力の友人のRayのことも知っていた。ちなみにRayはCraig Silversteinの次に入社した社員だが、今もまだ長期休暇中。

さよならー、といって去る車のバイヤー氏に手を振りながら、「来年にはGoogleも上場するかと言われているが、そうすると、数千人が車やら家やらを買い始めるのだろうか。それは、不動産市場にどれくらい影響するのだろうか。」などと卑近なことを考えてしまった。

ちなみに、アメリカでは車の個人間取引はごく日常的に行われている。ディーラを経由するより高く売れる・安く買える、からだ。買い手が自分でメカニック(修理工)に持ち込めば、故障していないかどうかチェックしてくれるから危険も少ない。(私自身は、とりあえずその辺をちょっと乗ってみて、エンジン音とかステアリングの感じが大丈夫だったらメカニックに持ち込まずに買ってしまうのだが。)

価格も、詳細に見積もりができる情報源がある。例えばKelly Blue Book車種、年次、走行距離という基本情報に加え、色、エアコン、パワーステアリングから、ステレオのレベル、プレミアムホイール、などなど、ありとあらゆるオプションをインプットすると、細かい査定が出てくる。

こうした情報をきちんと利用すれば、買う方も売る方も不安がない。情報をオープンにするとマーケットが活性化し、最適状態が訪れる、というののよい例だ。

プロセスは、というと、先週末にCraig's Listに情報を掲載して、翌日連絡があったGoogle君とちょこちょこと交渉して、今日引き渡しが済んだ。さくさくと物事は進み、まるで「一週間の歌」のようであった。(シュラシュラシュラ、というあれだ)

ちなみに、Craig's Listは、これだけで恋愛相手から、住む所から、家具から、車から仕事まで、全ての生活情報がただで入手できてしまう恐るべき情報集積掲示板である。ベイエリアに住んでいる人は必見。(他の地域のバージョンもあるが、どれくらい情報が充実しているかは不明だ)もう少しすると、このサイトを運営している偉大なCraigさんのドキュメンタリー映画までできるらしいぞ。

Posted by chika at 10:35 PM
September 03, 2003
ニンジン化現象

子供の頃、「赤い靴」の歌の歌詞の「異人さんに連れられて・・・」というところを「ニンジンさんに連れられて・・・」だと思っていた。葉っぱのついたニンジンが巨大化し、スーツを着て、赤い靴を履いた女の子の手を引いて連れて行くところを想像し、「それは怖い」と思っていた。

****

最近、私自身のニンジン化が進んでいるのではないかという気がする。日本的なものに共感しにくくなり、アメリカ的なものが自然に感じられるようになってきたのだ。

日本の週刊誌などを見ても「なんだかみんな大変そうだねー」という遠い感じだ。一方で、アメリカに住み始めた当初は「なんてドライで恐ろしい」と思った映画を久しぶりにDVDで見たら、それほどドライに感じられなくなり、「そういうこともあるよねえ」という感じになってきた。

例えば、政府の特別麻薬担当官の娘が麻薬におぼれる話のTrafficという映画とか、有名になりたいだけで連続殺人を犯す移民が出てくる15 Minutesとか。なんて乾いた異常さなんだろう、と最初は思ったのだが。

とはいうものの、まだ完璧にニンジン化したわけでもないようだ。

先日日本から親戚が遊びに来ていたのだが、9歳の甥がある映画を説明してくれた。彼いわく、
「例えばMatrixだと、バンバン撃たれても全然死なないけど、その映画は一発撃たれただけで死んじゃうんだよ」とのこと。
なんのことやらと思ったのだが、実は恋人が討たれて死ぬという悲劇的恋愛映画のことなのであった。恋愛の部分は全然心に残らず、一発撃たれただけで死ぬ、というところだけ覚えているとは、子供とはいえまさに男的感性だと笑ってしまったのだが、生粋のアメリカ人であるうちのダンナは
「間違って小学生の子供が銃を持ち出して友達や家族を殺してしまったりする事件が時々あるけれど、なるほど、Matrixみたいな映画をたくさん見た子供たちは『一発撃ったくらいでは死なない』と思ってるんだな。危険だなぁ」
という感想で、それはいたって「アメリカ人的感慨」だなぁ、と思った。

ということで、そこまで私はまだニンジン化してないようであります。

Posted by chika at 10:02 PM
September 02, 2003
R&Dのマーケットプレース

Innocentiveという面白い会社がある。製薬大手のEli Lillyが出資して作られたスタートアップで、フリーランスの研究者と企業のR&D;のマーケットプレースを運営している。

世界125カ国に広がる2万5千人の研究者がsolverとして登録されている。(サイトは、中国語、ロシア語、ドイツ語、スペイン語、英語、となっている。日本語はありません。)企業側は、R&D;の課題を2000ドル払ってポスト、問題が解けた暁には数千ドルから10万ドルの懸賞金を払う、という仕組み。ポスト料に加えて、InnoCentiveは懸賞金の60-100%を受け取る。今までの実績では、40%の問題が解けたそうだ。

もちろん問題がピンポイントに明確化されていなければ使えない仕組みだが、世界の知恵をあまねく活用するという意味で面白い試み。研究者側のインセンティブは、先進国では腕試しが主だが、中国やインドでは懸賞金も魅力的で、7万5千ドルの懸賞金の問題に、インドの会社がチームを作って挑戦したこともあったとのこと。

ミスミという日本の会社は、人材のオープンマーケット制をとったことで有名になった。必要な人材があるときは、社内外両方から広く募集することで人事を活性化する。同様に、InnoCentiveを使ってR&Dを活性化、というのも楽しそうだ。(これまでのんびりやってきた社内の研究者にはつらく苦しいかもしれないが)Innocentiveと似たような会社でNinesigmaというのもあります。

Posted by chika at 08:32 PM
September 01, 2003
Onion makes money

Onionといえば、私の愛するSatire siteである。(注:愛する、はsatireにかかりOnionにかかるわけではない。Onionはそこまで面白いと思わないんだよなぁ・・・。以前Onionのジョークを集めた本も買ってしまったのだが・・・。イラク戦争の時のブラックジョークについて書いたblogもあります。)

そのOnionがそれなりにこじんまりプロフィタブルなビジネスになっている、というBusiness2.0の記事。The Onion Is No Joke

130万人の読者で、年間7百万ドルの広告収入でちょっぴり黒字、ということ。大学生2人が母親からの8千ドルの借金ではじめたサイトが、投資家の力添えもあってここまでになった。しかし、ここから爆発的に成長するとは思っていない、とOnionスタッフは言う。いわく、"We get to make a decent amount of money but have a large amount of happiness."

インターネットって、こういう類のマイクロビジネスにすごく向いている。「普通の暮らし」でも結構レベルが高いんだから、何もみんなでしゃかりきになることもない。「給料はそこそこだけど、超楽しいからいいんだ」という生き方を強力にサポートしてくれるメディアは大変すばらしいと思いませんか?

Posted by chika at 07:26 PM